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Happy Birthday 2011
(誕生日って言われても…なぁ…)
烈は、満開の桜が並ぶ遊歩道を歩いていた。
社会人になって、思い通りの仕事が出来るようになってきた。
いろんな苦労やストレスもあるが、働いてそれなりに収入もあって、
公私ともに充実している。
誕生日という事をどこからともなく聞きつけて、
会社の同期や先輩、後輩までもが、週末に祝ってくれた。
けれども、祝われている本人としては、どこか他人事のように感じていたのだ。
就職してから親元を離れて生活しているマンションに戻る。
初めは単身用のアパートに住んでいたが、
後を追うように家を出た豪と合流して、
今ではこじんまりとしたマンションに二人暮らしだ。
お互い、連れ込むような彼女も居ないから、
大層気楽な生活だった。
職業柄、二人の休日が合うことは少ないため、
それぞれが休みの日に重点的に家事をするというスタイルをとっていた。
もちろん、二人して仕事があるときは分担制だ。
凝り性な性格ゆえか、当初は豪の方が上手だった料理も、
今では烈もこなすことが出来る。
部屋の片付けなどは烈の方が気が回るから、
もしかすると豪の方がもっと楽に過ごせているのかもしれないが。
今日は誕生日。
烈はカレンダーどおり休みだが、豪は出勤だ。
シフトをずらして休みを取ろうとしてたようだが、どうも忙しくてダメだったらしい。
趣味が高じてそのまま車の整備士になるあたりは、豪らしいな、と烈は思う。
『烈兄貴、休みは取れなかったけどさ、
外にメシ喰いに行こうよ。俺奢るから!』
と言われてていたため、とりあえずの食料品や日用品を買いに出かけて
帰宅したというわけだ。
天気も良くて、洗濯物も良く乾いた。
布団も干したし、まだ朝晩冷え込むこの時期に、ふかふかの布団は気持ち良いだろう。
部屋の掃除もしたし、夕飯のしたくはしなくても良い。
買って来た品々を冷蔵庫やストッカーにしまうと、
烈はコーヒーを淹れて、ソファに腰を落ち着けた。
豪が帰ってくるまで、まだ時間がある。
仕事柄、油まみれで帰ってくるため、外で待ち合わせが出来ない。
一旦帰ってシャワーで汚れを落としてから出かける予定になっていた。
座っていたソファにころっと寝転がると、春の陽気も手伝って、烈はうとうとと眠りに落ちていた。
「ただいまー」
仕事を早めに切り上げさせてもらい、豪は帰宅した。
今日は烈の誕生日で、ちょっと高めの店を予約しておいた。
汚れを落として早めに出発し、一緒に街を歩きながら
路面に並ぶ店を冷やかすのも悪くはない、と急いで帰宅したのだ。
まだ日も高く、烈に予告しておいた時間よりはかなり早い。
返事がないので、不思議に思いつつリビングに入ると、
ソファで眠る烈がいた。
その姿を見て、ふふっと微笑むと、
豪は烈を起こさないように静かにシャワーを浴びにいった。
気付くと、ふわりといい匂いがした。
さわさわと撫でられる感覚がとても気持ち良い。
「んー…ごぉ…?」
「ただいま、烈兄貴」
「…なんでこんな至近距離にいるの?」
本当に、烈のすぐ近く、覗き込むようにして烈の髪を撫でている豪に、
驚きが隠せないが、未だ覚醒しきっていない意識では、
ただぼんやりとその姿を見つめ、疑問を投げかけることしか出来なかった。
とろんとしたその表情が、まだ眠りを欲していると感じたのか、
豪はくすっと笑い、烈の髪を撫でることは止めずにゆっくりと喋った。
「兄貴を、撫でてるからかなー。」
「…なんだよ、それ…」
半分眠りの中にいる烈が、楽しそうにくすくす笑う。
「こんな時くらいしか、兄貴を撫でるなんて出来ないじゃん。」
「…そうかもなぁ…」
「でしょ。」
「ふふ……あ、今…何時?」
うっすらと開かれていた瞳に再び瞼が落ちる。
眠るつもりはないのだろうが、もう少しまどろみの中にいたい、そんな雰囲気が伝わってきた。
「今、17時かな…」
「もうそろそろ、準備して家でないと…」
予約19時だったろ?と尋ねながら、烈がゆっくりと起き上がる。
ソファの前に跪いたままだった豪は、頭が撫でられなくなって残念、と考えながら、
そっとその場に立ち上がって、烈の左手を取る。
次いで、起き上がった烈が支えられながら立ち上がるとき、
ふと視界をキラリと光るものが反射して、なんとは無に光ったその方へと視線を向けた。
「……コレ………なに?」
「…なにって…見てわかんねぇ?」
目の前に、良く見えるようにと、ぐいっと差し出す豪に、
烈は唖然とする。
「…わかんない。」
「嘘つき。」
烈の言葉に、豪は笑って答えながら、再び、烈の座るソファの足元に跪いた。
「誕生日、おめでとう。烈兄貴。
俺、これからもずっと一緒にこの日を、側で祝っていきたい。
だから、ずっとずっと、俺と一緒に居てください。」
「……豪……」
「結婚しよう?」
烈の左薬指に光るプラチナリングに、豪はそっと口付けを落とした。
シンプルだが、繊細なつくりのそれは滑らかなフォルムで、
窓から射し込む夕日を柔らかく反射していた。
「…その……これって…」
「プロポーズ。だけど、これはエンゲージじゃねぇよ?マリッジリング。」
真剣に告げ、指輪に口付けを落とす豪の表情に、
烈は不意に鼓動が早くなる。
「俺、仕事柄指にははめられねぇけど、
ちゃんと同じの、チェーンつけて首からさげてるから。」
ほら、とシャツの襟元からチェーンを掬って、烈に見せたものは、
烈の左薬指にはめられている指輪と全く同じデザインのもの。
「…まさか…ガキの頃からずーっと見てきた弟に、
プロポーズされる日がくるなんてなぁ…」
チェーンに通された指輪を見つめながら、しみじみと呟く烈に、
豪は苦笑いをした。
「もうガキじゃねぇって。」
「昔はガサツだったし、こんなサプライズするなんて、思いも寄らないよ。」
「…昔は忘れてくれよ。」
がくっと頭垂れた豪に、烈ははっきりと覚醒した頭でふふっと笑った。
「いいよ。結婚しよう、豪。」
「烈兄貴!」
烈の返事を聞いたとたん、ぱっと顔色を変えて喜ぶ豪は、
確かに大人になったが、どこか昔の面影もちゃんとあって。
烈はそれがなんだか妙に面映く、しかし誇らしくもあった。
本当は、食事に行った、デザートの席で渡そうと思ったと言われ、
自宅でプロポーズされて本当に良かったと思う烈だった。
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