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死神の効能
「…ぃってー…」
「ソウル、大丈夫?」
「ぼーっとしてるからだろ?」
ソウルが思わずこぼした小さな言葉に、マカとブラック☆スターが声を掛ける。
確かに、少々油断した…かも知れない。
とはいえ、敵がソウルと同じく鎌型で、スパスパと周りを斬っていくから、
気が散って仕方無かったのだ。
何で気が散るのか、と言われれば、それは大層不純な理由なのだが。
ソウルは、少し離れた場所に立っているキッドをチラリと盗み見る。
先ほどの敵に、ほとんど無抵抗でスパスパと斬られたせいで、
服があちこち切り裂かれている。
「大丈夫かよキッド?」
「キッドくんの悪い癖だよぅ!」
「……しかし……俺にはシンメトリーは倒せん!!」
「まぁ、今回はマカやブラック☆スターがいたから良かったものの。」
「前も死に掛けたしねー!きゃはは」
…そうなのだ。
今回の敵は、よりにもよって、シンメトリーな外見を持つ鎌型だったのだ。
カマキリのように細身の体に妙な刺青、そのくせ燕尾服をきっちりと着こなし、
両手に草刈鎌のような小さい鎌を二つ持って、カマイタチのような攻撃を仕掛けてきた。
お陰で、キッドの腹やら太ももやら鎖骨やら、普段は露出しない肌が、
エロス的に最高に良い感じで晒されていくのだから、
ソウルにとっては眼福と言うか、何というか。
心中とても複雑だ。
死神の体のつくりのおかげか、キッド自身の小さな裂傷は既に治りつつあるものの、
如何せん服はそのまま、裂かれたまま。
ソウルは小さく舌打ちしながら、自身の傷に目を落とした。
自らの注意力散漫が招いた結果とは言え、普通の人間であるソウルにとっては、
この裂傷の完治に数日要するだろう。
「…いてぇ…」
もう一度呟いて、マカに叩かれる。
「次からは気をつけてよね、ソウル!」
「へいへい」
はぁ、と溜息を吐いてキッドへ視線を投げると、ばちっと目が合った。
反射的に体を強張らせてしまったソウルだが、キッドは気にせず近くに寄ってきた。
「おいソウル、お前消毒しなくて良いのか?」
「は?…あ…おぉ。まぁ大丈夫なんじゃねぇ?」
しどろもどろ答えるソウルをいぶかしむでもなく、キッドはそうか?と小首を傾げた。
「舐めときゃ治るだろ、こんなん。」
ブラック☆スターがソウルの傷を覗き込みながら告げると、
気が惹かれたのか、キッドが更に歩み寄る。
歩く事により、チラチラと見え隠れする腹のラインが、
健全で未熟な青少年の一人であるソウルには、相当凶悪な、魔女以上の破壊力を持っていた。
斬られた左腕はじくじくと痛む。
裂傷は、斬られた直後よりも、後から痛むものだ。熱を持っているかも知れない、と
近づいてくるキッドを見ながらぼんやり考えた時、
傷には触れないように、ブラック☆スターに腕をつかまれた。
「キッド、お前死神なんだろ。舐めてやれよ。」
「…はぁ?!」
「…?死神だと何か関係があるのか?」
「だってお前って、少々の毒やら何やらは大丈夫なんだろ?
お前のツバつけときゃ、化膿止めとかになんじゃねぇの?」
お前の傷、もう塞がってっし。と続けるブラック☆スター。
ソウルの素っ頓狂な声は綺麗にスルーされ、キッドはふむ、と考えるように顎に指を当てている。
「父上からそんな話は聞いたこと無いが…」
「試してみたら良いんじゃね?」
「まぁ、そうだな。」
ソウルが鯉のように口をパクパクしている間に、
ブラック☆スターとキッドの間で話がまとまる。
何時の間にやら、マカと椿、リズ・パティは早く街に戻りたい、だの、風呂に入りたい、だの
ゆるーい雰囲気の中にいる。
「ほれ」
ブラック☆スターによって、キッドの前に差し出されるソウルの左腕。
「うむ。」
軽く頷いて、キッドが紅く艶やかな舌を出す。
ソウルの傷口にキッドの舌が触れた瞬間、ビリっと電気が走ったように体がビクついた。
「痛かったか?」
「…はへっ…やっ…別に……っ」
「あっはっはっはっは!震えてるぜソウルの奴!」
「む。やはり痛かったのか。じゃあそっと舐めるか。」
再び、傷口にキッドの舌があてがわれる。
温かくて、ぬるつく感覚と、軽く瞳を伏せて傷口を舐める、そのキッドの表情、
ゆっくりと舌を這わせるために、水音が響く。
触覚も視覚も聴覚もやられ、ソウルの許容量を超えた。
そしてその結果―――
「おわっ!!!なんで鼻血噴き出してんだよソウル!!!!」
「死神の唾液には血流を良くする成分が含まれていたのか?
帰ったら父上に報告だっ!!」
勢い良く鼻血を噴き出すソウルと、ぎゃーぎゃーと騒ぐブラック☆スター、
新たな発見だ!と目を輝かせるキッド。
三者三様の様子を、遠巻きに見つめるマカ。
「若いって良いなー…」
(…マカちゃんだって、十分若いでしょ…)
呟いたマカに、椿は胸中苦笑しながら、突っ込みを入れた。
微笑むだけで、声には出さずに。
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