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もしもシリーズ
もしも、伊達と真田が結婚したら
「おはようございます政宗殿」
「…ん……」
わたしの名は、真田幸村。
わたしの朝は、最愛の政宗殿を起こすことから始まる。
けれど、始める前に下準備が必要なのは言わずもがな、である。
毎朝5時に起きて、朝ごはんの仕度、洗濯、お風呂掃除を片付ける。
朝7時、政宗殿を起こす。
政宗殿は朝パン派で、目覚めにはコーヒーが不可欠だ。
低血圧、というほどではないようだが、朝には弱いらしい。
もぞもぞと布団の温もりに戻ろうとする体を抱きかかけて、
リビングを通り抜けてダイニングへ。
椅子へ座らせると、まだ覚醒しきってないのか、こちらへ向かって手を伸ばしてくる。
その愛らしさといったら筆舌に尽くしがたく、また伝えるつもりも一切、ない。
なぜなら政宗殿は私だけの政宗殿であって、
他の誰にも見せたくないし、雰囲気すら伝えたくない。
出来れば一生、この家から出したくないくらい愛らしく、愛おしいのだけれど、
如何せんそれをしてしまうと犯罪なので、やらない。
わたしが犯罪者になってしまうと、政宗殿のその先が心配だ。
わたしは伸ばされた政宗殿の手に、そっとコーヒーの入ったマグを渡す。
何でも、朝は香りが楽しみたいとの事で、ブルーマウンテンらしい。
あとは政宗殿のリクエストに応じてわたしが豆をブレンドしている。
そのうち、コーヒーソムリエになれるかも知れない。
政宗殿はと言えば、ようやく目が覚めてきたのか、
コーヒーをおいしそうに飲んでいる。
気をつけなければいけないのは、政宗殿は猫舌であるということ。
熱すぎてはいけないのだ。
今日は、トーストとカリカリベーコン、目玉焼きに、温野菜。
デザートはりんご。
サラダを作って出しても良いのだが、朝から体を冷やしてはいけない。
「政宗殿、明日はクロワッサンにしますね」
「…ん…」
政宗殿がゆっくりと食事をしている間、わたしは次の仕事をする。
本当は隣で座って眺めていたいけれど、あまりじろじろ見ると、政宗殿の機嫌が急降下する。
遠巻きに政宗殿の姿を確認しながら、せっせとベランダ菜園の水遣りだ。
「…幸村…スープ。」
少し大きめのパジャマ(これはわたしの趣味)を着た政宗殿がベランダを振り返り、
スープを催促する。
「今日はかぼちゃのポタージュですけど、いいですか?」
コクリと頷く政宗殿を確認して、いそいそとキッチンに戻る。
食器棚から取り出したスープボウルに、
夜仕込んでおいた、パンプキンポタージュを注ぐ。
今日、スープをご所望ということは、もしかすると目玉焼きは食べないかも知れない。
政宗殿は、そこまで食が太いわけではない。
「どうぞ」
「…ありがとう」
寝ぼけまなこだが、この「ありがとう」という言葉に、わたしは滅法弱い。
政宗殿の頭を撫でながら、暫し幸せな気分に浸ってしまう。
はっ!いけないいけない。
次の仕事をしなくては。
朝7時半、わたしは急いで政宗殿の昼食の準備をする。
「政宗殿!マカロニグラタンを作って置いたので、
お昼はこれを電子レンジでチンしてくださいね。600Wで15分です。」
「わかった。」
「冷蔵庫にサラダを作っておきました。
ドレッシングはサウザン、香味野菜、青じそ、イタリアン、焙煎ゴマ、お好きなものを。」
こくり、と頷く政宗殿は、まだ完全に覚醒していないようだ。
わたしはエプロンをとり、ネクタイをしめる。
ゴミを持って玄関へ。
「それでは政宗殿、今日も一日行ってまいります」
「幸村…」
ダイニングにいたはずの政宗殿が、玄関口に立つわたしをじっと見ています。
小首を傾げて。
ああなんと愛らしい!これでわたしは今日も一日頑張れます!!
「明日は、バターロールが食べたい。」
「はい!よろこんでぇ!!」
「行って来い」
「行ってまいります!」
朝8時、政宗殿の極上の笑顔に送り出されて出勤。
わたしは全速力で駅まで走り、通勤電車に飛び乗った。
会社に着くまでの30分、電車に揺られながら、
バターロールの仕込みの段取りを考える。
夕食は、政宗殿が準備してくださる。
政宗殿は料理人顔負けの料理を作ってくださるから、毎日早く帰りたくて仕方ない。
夜の政宗殿とのやり取りは、また別の機会につづろうと思う。
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