体液交換
「パパから聞いたんだけど…。
死神との体液交換ってかなり気持ち良いらしいって本当?」
聞かれた内容に、リズは噴きだし、パティは不思議顔でマカを見つめ返した。
場所は教室で、マカ、リズ、パティだけでなく、
もちろんキッドも、ソウルも、ブラック☆スターに椿もいる。
先ほどのマカの問いが聞こえる範囲に、当の死神様のご子息であるキッドもいるのだ。
「…だってさ。キッド、答えてやんなよ。」
幾分、上ずった声でリズがキッドに話を振った。
「一応俺も死神だが…。マカ、試してみたいのか?」
「…え・・・?いいの?」
まるで物の貸し借りのようなやり取りに、逆に周囲が困惑する。
何せ体液交換だ。そういう事に過敏になりがちなお年頃でもある。
もちろん、ソウル、ブラック☆スターは反対した。
「そんな…簡単に決めていい事じゃないだろ!」
「そうなのか?」
多感な青少年であるソウルとブラック☆スターには刺激が強い内容に思えるが、
キッドにとってはそうではないようだ。
マカもどこかワクワクとした表情で、止めるソウルとブラック☆スターに笑顔で
"邪魔すんな"と訴えかけていた。
「大丈夫だよキッドくん!当人同士が了解って言ってるんだから。」
「…まぁ…体液交換とは言ってもキス程度だしな。」
「いやちょっとまてそこの二人。"キス程度"ってそれだけでも相当なもんだろ?」
「じゃあキッド、マカの後に俺様も試させてくれ!」
ソウルの突っ込みに、ドサクサ紛れのブラック☆スター。
だんだん収集がつかなくなってきた、とリズが額に手を当てるが、
ほぼ死武専最強と言って良い職人3名(うち一人は死神)に武器一人。
誰も間に入って止めようという気が起きる者はいなかった。
「俺は構わないが?」
「うっそマジ?やった!じゃあ早速試そうぜ♪」
「そこでアッサリ頷くなよ!」
キッドの答えに手の平を返したようなブラック☆スターに、更に焦るソウル。
心ひそかに想いを寄せている人物の貞操観念が低いとは、予想していなかった。
「じゃあ。」
キッドは言うが早いか、マカの腰を右手で引き寄せ、左手で軽く顎を持ち上げた。
あまりにも自然な所作に誰もがツッコミを忘れた。
目の前で繰り広げられる濃厚なキスシーンにただただ息を飲むばかりだ。
10秒か20秒か、良く解からないが、とにかく一瞬とも永遠とも思えるような、
沈黙の時間が過ぎ。
キッドの腕が優しくマカを解放すると、マカはその場にへたり込んでしまった。
「…っはぁ…こ…れはっ…確かに、すごい…っ…」
「そうか?」
へたり込みつつも、しっかりと感想を述べる辺りがマカだろうか。
じゃあ俺様も!と続くブラック☆スターは、マカに手を差し伸べようとしているキッドの腕を取り、
自らの胸へとキッドの体を抱きこんだ。
体を抱きこむ腕とは反対の手でキッドの首の後ろをしっかりと固定して、
キッドが逃げられないようにしている。
キッド自身、逃げるつもりが無いから、それは窮屈でしかなかったのだが。
ブラック☆スターにされるがまま、求められるままキスをした。
そして暫くすると、マカと同じようにへたり込むブラック☆スター。
「こいつはヤベェ…クセになっちまう……」
口元を押さえ、頬を染めるブラック☆スターに、ソウルはゴクリ、と喉を鳴らす。
「お前は良いのか?」
そんなソウルの様子を見て、揶揄うようにキッドが問う。
キッドの背後では、リズが心配そうに見ていた。
「おいキッド、あんま煽るなよ、ソウルが一番ヤバイから。」
リズはキッドの耳元でぼそぼそ囁くが、キッドは構わずソウルに手を伸ばした。
「どうする?」
問いかけるキッドに対し、狼狽するソウル。
「ちなみに、父上のキスは俺が腰砕けになるぞ。」
「「マジでっ?!」」
見事にハモったマカとブラック☆スターの声。
こんなすごいキスをするキッドを更に腰砕けにさせるキスってどんなだ、
あんな仮面つけてるくせに侮れない、などと盛り上がるマカとブラック☆スターに完全に話の腰を折られ、
ソウルはキッドとキスをする千載一遇のチャンスを逃した。
据え膳は、喰えるときに必ず喰おう、ソウルはそう思った。
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