"背徳"って言葉を神が使うのは、おかしい事かも知れない。
けれど、血肉を分けたわが子に、血が沸くような劣情を抱いてしまう己を振り返るとき、
脳裏に過ぎるこの言葉。
本当は"背徳"だろうがなんだろうが、構わない。
この世に存在してから初めて興味を持ち、初めて愛しいと思った。
今、愛しいと思った存在をこの世に産み落としてくれた女性にすら、
愛情を持てなかった自分が。
ただ、この想いの対象である相手はわが子であり、父としてしか、見てはくれない。
世の摂理から行けば当然だ。
しかし、もうそれだけでは我慢が出来ない自分がいる。
傷つけたくない、自分の物でいて欲しい。
歪んだ想いはどんどんと自分を追い詰めてゆく。
そして、愛しいわが子はそんな想いも知らずに、他の人間に心惹かれていく。
嗚呼、何故。
どうして親子になど存在させてしまったのか。
他に目を向けて、飛び立とうとする姿を、間近で見ていることが苦しい。
心が手に入らないのなら、その心に深く、深く、消えない傷を与えたい。
忘れないように、忘れられないように。
だから。
「何故?父上はこの世の秩序でしょう?!
どうして、魔女に組みするんですか!!!!」
魔女を従え、死武専生の前に立つわたしの目の前で、
悲痛な表情で叫ぶ愛しい、愛しい、その姿。
「キッドくん、仕方ないんだよ。もう私は疲れちゃったんだ…。」
「何に疲れたというんだい、父上!
俺が、あなたを手伝うから…だから、敵対するだなんて言わないで欲しい。
俺に、あなたを倒させないで欲しい…」
涙ぐむその姿にも、もう心動かされることはない。
手伝うと言ってくれるなら。
キッド、どうかその手で私を終わらせて欲しい。
この世で一番愛しい君に、一生消えない傷を。
私に、この世で一番愛しい君からの解放を。
これが、私の望みなんだ。
愛しているから、君が愛した世界を、人たちを、壊したくはない。
だから、わたしの最初で最期のわがままを。
この望みの成就を。
手伝って欲しい。
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