*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
正答即答・誤答禁止!
なんだかいろいろと、ごたごたしたことが片付いた。
蜘蛛とか、狂気とか、箱とか。
スパルトイは今も存在しているが、常に出動状態に身を置いているという訳では無い。
だから、だろうか。
最近自分でも腑抜けていると思う。
一時のマカみたいに"燃え尽き症候群"なのかも知れない。
それを見越してかどうかは分からないが、
急遽、超筆記試験が行われることになった。
「まぁ、もう一度気を引き締めちゃってちょーだい。
ちなみに、追試だった生徒にはきっつぅ~い課外授業も受けさせるから。
頑張ってね~ん」
とは、齢800年超の死神様のお言葉。
追試も面倒だし、きっつぅ~い課外授業はもっと厭だ。
と、言うか。
デスサイズになった後も、課外授業があるのだろうか。
ふとソウルは疑問に思うが、そういえば今はそんな事している場合じゃない、と
思わず我に返った。
そう。先ほどから超筆記試験に向けて、テキストを開いて勉強しているのだが。
内容がほとんど、全くと言って良いほど入ってこない。
マカは相変らずトップの成績を取ることだけを考えているから、
ヤマなど教えてくれない。
(それに、マカは全体的に満遍なくやりこむタイプで、ヤマ掛けなどしないだろう。)
やる気も気力も抜け出てしまった今のソウルは、追試確定の部類だろう。
パティやリズなんかも追試かな、とか
まぁ当然、ブラック☆スターも追試だよな、とか。
テキストから魂学の内容は頭に入らないが、脳内での要らない検討は盛んだった。
誰も居なくなった図書館に、一人ポツンと残っていることも馬鹿らしく思え、
ソウルは「やめたやめた!」と誰に言うでもなく言葉に出して、
テキストやら筆記用具やらを鞄に詰め始めた。
誰もいない静かな図書室に、やたらと賑やかに音が響く。
ここまで誰も居ないなら、ついでに歌でも歌ってやろうか、と思って軽く鼻唄を歌い始めたとき。
「…鼻唄まで歌いだすとは。やりたい放題だな、ソウル。」
低いがよく響く、どこか呆れた色を含んだ声が掛けられた。
視線を上げると、頭に思い描いていた通りに、キッドが立っている。
日の落ちかかった、茜色の光の中にキラキラ反射する瞳が、まるで宝石のようだ。
「キッド…」
鼻唄を止めて、立ち上がる。
「超筆記試験の勉強か?」
「あぁ、まぁな。でも、頭に入らねーから、追試決定かもな。」
「練習がてら、少し問題を出してやろうか。」
"勉強"と称して図書館に来たものの、結局何も頭に入っていないソウルは、
出来ればそういった事は避けたかった。
けれど、キッドが「もしかしたら、同じ問題が出るかもな?」と
魅力的な言葉を投げかけてくると、グラつく。
「やるか?」
「おぅ。」
「…正解数が多かったら、良いものをやろう。」
キッドの意味深な言葉に、ソウルの眉がピクリと動く。
キッドは死神様の息子で魂学には精通している。
というか、職業柄もう頭に入っているらしい。
そのキッドが出す問題なのだから、きっと重要なポイントだろうと勝手に想像する。
そして、キッドが言う"良いもの"というのは、キッドに関する何かではないか、と
こちらも勝手に妄想が膨らんでいく。
いろいろなごたごたがある中で、ソウルとキッドの仲は進展していない。
付き合い始めてすぐにこの一連の騒動、キッドは捕らわれて救出したのはつい最近。
と、なれば。
妄想も期待も、ソウルの中で過分に育っていった。
不敵に笑むキッドに、ソウルは負けじと問題を受けることにした。
「これから、5問、二択で問題を出す。すべて2秒以内に回答しろ。」
「2秒?!」
短くね?と呟くソウルに構わず、キッドは腕を組んで「第一問――」と口にし始めた。
仕方なく、ソウルはその場に立ち尽くして、キッドの声に集中する。
「俺の髪の色は何色だ?」
「はぁ?」
「1番:黒、2番:灰色」
「えっ?!あ…っ…1番!」
「正解」
突然はじまった問題にも、その内容にもソウルは戸惑う。
明らかに魂学の問題ではない。
キッドの髪の色がどうとか、超筆記試験に出るわけがないのだから。
いまいちキッドの考えが読めないまま、様子を窺うが、キッドの表情が変わることはない。
相変らず綺麗な双眸は、おもしろそうにソウルを見据えているし、
血色の良い唇は楽しそうに口角が上がっている。
「第二問、俺の瞳の色は? 1番:はちみつ色、2番:黄金色」
「えっ?ちょ…はちみつと黄金ってどっちも黄色だし…」
「不正解」
律儀に、「いち、に…」とカウントダウンしているキッドが、
時間切れのため「不正解」と告げ、指を伸ばしてソウルの鼻頭を、指で軽く弾いた。
ちなみに、正解をするとキッドはにっこりと微笑むだけだったのだが。
どうやら不正解だとデコピン(ハナピン?)がついてくるようだ。
『なんなんだ、この罰ゲーム』と思わなくもないが、
キッドが楽しそうなので、良しとする。
思い返してみれば、キッドが捕らわれてからこうして二人で居る時間がなかった。
もう少し、このキッドの戯れに付き合っても良い気がしていた。
第三問、第四問と結局キッド自身にまつわる問題が出題されて、
正解率は50%
流石に、付き合ってる(付き合い始めてからの二人の時間はかなり短いが)相手の事を
知らな過ぎるのでは、とソウル自身が凹み始めた。
「第五問。最終問題だ。これが分かったら、
今までの不正解をナシにしてやっても良いぞ。」
「…じゃああのデコピンは…」
思わず呟いたが、あっさりスルーされた。
「最終問題。ソウルは、俺の事をどう思っている?
1番:好き、2番:嫌い」
この言葉を聞いて、ソウルはコンマ何秒の世界で思考を巡らせる。
目の前のキッドの表情は変わることがない。
相変らず不敵に笑んでいる。けれども、最終問題のなんと可愛いことか。
思わずソウルも口角が上がってしまう。
こんなこと、わざわざ回りくどい聞き方しなくても、
ちゃんと聞けば、すぐに答えたことなのに、と思うが、妙に頑固で古風な死神に、
なかなかソウルの考えは届かないのだろう。
ソウルはゆっくり手を伸ばして、キッドの襟に触れる。
その間も、キッドは表情を変える事なく、相変らず笑みながらカウントダウンをしている。
もとから1メートルも開いていない距離をキッドの襟を引くことで埋めて、
鼻先が触れ合うほどに接近してからソウルは答えた。
「二択が間違ってるぜ、キッド。正解は、3番:愛してる」
「…っソウ……ん」
キッドが何かを言う前に、ソウルはその唇を塞いだ。
己のそれで。
恋人のちょっとした戯れでも、何でも。
こうして時間を作ってくれることが相当嬉しかったのだ。
ちなみに、キッドの言っていた"良いもの"とは、
魂学のテキストの要点をまとめた冊子だった。
が、魂学のテキスト量よりも5倍以上に膨れ上がっていたのは、
キッドの愛(少しでも魂学を知ってもらおうと、挿入したtopixや小咄が多すぎた)の表れだったとか。
PR