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策士
今日は、バレンタインデーだ。
菓子メーカーの陰謀だという事は、重々承知だ。
けれど、それに乗らない手はない。
三成は始終笑顔で、女性すら「綺麗」と形容させるその顔を、
さらに美しく柔らかく見せていた。
「政宗!少し話がある」
「わしは忙しい。明日にせぇ。」
授業後、上級学年の三成が政宗の教室まで迎えに行くと、
政宗は今まさに鞄を持って教室を出ようとしていたところだった。
なんでも、実家から親が来るそうで、急いで帰らなければならないという事だった。
それなりに重要な用事だと思うが、今の三成にとっては、自分の用件の方が大事だ。
「時間は取らせない。十分付き合え」
言うだけ言って、三成は政宗の腕を取る。
問答無用で連れ出して、小柄な政宗を半ば引き摺りながら歩く。
向かった先は、校舎の奥まった場所にある、特別教室。
「一体、何のようじゃ…」
若干、政宗は不機嫌そうだが、大人しく三成について歩く。
そして、人影が全くなくなり、誰も居なくなったことを確認して、
三成は廊下の影に、政宗の背を押し付けた。
「なっ?!」
突然の暴挙に政宗が驚く間もなく、すぐさまその驚きの声を、三成の口が塞ぐ。
触れるだけのキスから、舌を這わせ、咥内も嘗め尽くすような、
濃厚なものを仕掛けられて、政宗の眉が険しくなる。
上手く呼吸が出来ずに、三成の背を叩く。
政宗の咥内を貪り、満足したのか、三成は難なく政宗から離れる。
「…っ…一体…何のまねじゃ?!」
少々涙目で睨みつける事になったのは、不可抗力だ。
政宗はキツイ眼差しで三成を睨みつけたつもりだったが、
果たして効力があったかどうかは分からない。
「今日はバレンタインデーだからな。俺の気持ちだ。ありがたく受け取るがいい。」
「…はぁ?」
「そして政宗、ホワイトデーは三倍返しだからな。忘れるなよ?」
かなり上から目線の発言、校内での暴挙、
それだけでも政宗が怒り出すのは道理だが、最後の一言が更に良くなかったらしい。
「…っの……馬鹿者…っ!!!!」
言うだけ言って、踵を返した三成の背に、政宗の呪詛の声が止むことはなかった。
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