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ツンデレ
(…作ってしまった…)
何を?って、それは、バレンタインデー用のチョコレートを。
何の因果か、政宗が割と料理には五月蝿いという話が、
尾ひれに背びれまでつけて、おねねやくのいちや、
お市や甲斐姫らといった、女性陣に知られてしまったのが運の尽き。
あれよあれよと言う間に取り囲まれたかと思いきや
問答無用で家庭科室へ連れ込まれ、大量のチョコレートやら製菓グッズに囲まれることになった。
とりあえず、彼女等の要求を呑まねば解放されないという事を悟り、
チョコレートやらガトー・ショコラ、ザッハトルテ…etc
沢山のチョコレート菓子作りを手伝ったのだが。
意外と器用な甲斐姫を除いては、壊滅的な状況で。
彼女等の完成品のうち、7~8割は政宗が作ったといっても過言ではない。
何とか作り上げ、嵐のように彼女達は立ち去っていったが、
一人家庭科室に残された政宗は、せっせとシンクを磨いていた。
片付けの最中、視界の端に入ったのは、余ったチョコレートと生クリーム、
僅かなアーモンドスライスといった品々。
「…勿体無い…」
残ったものでは大層なものは作れないが、それでも手早くガナッシュやトリュフなど、
簡単なチョコレートを何品か作って、冒頭に至る。
我ながら見事な出来だ、と思う。
冷蔵庫で冷やしている間に、調理器具や調理台を片付けってしまって、
政宗は紅茶でも淹れようと準備を始めた。
せっかく作ったチョコレートだ。美味しく食べよう、そう思って、
家庭科室に備え付けてある茶器を出そうと食器棚を開ける。
しかし、目に留まったのは、当初目的としていた茶器ではなく、
その片隅に置かれたラッピンググッズ。
「…………」
政宗は無言でラッピンググッズを見つめ、じっと考え込んだ。
「政宗殿!今お帰りですか?」
「…まぁな。」
日も既に西に傾いて、夕焼けが綺麗な空。
女性陣の突然の襲撃さえなければ、こんなに遅くなる予定ではなかったのだが。
部活を終えた幸村とばったり出くわしてしまった。
政宗には、なんとなく、この時間ならば、幸村と会えるのではないか?という
期待じみたものがあったのだが…。
「珍しいですね、帰宅部の政宗殿がこんな時間まで。」
にっこりとさわやかに笑う幸村の顔が、何だか眩しい。
政宗は直視できずに、ふいっと視線をそらせると、鞄を漁り始めた。
「…ほらっ、食べたいなら、食べても良い。」
「…?明けても良いですか?」
幸村は、綺麗にラッピングされた小さな包みを、開け始める。
「べ…別に、お前のために作ったわけじゃない…というか、
女どもが片付けもせず帰るから、材料が余ってて!」
幸村が開封している間、政宗は何故か言い訳じみた言葉を紡いでしまう。
なんとなく、沈黙が怖いのだ。
「…………」
「……幸村?」
けれど、黙って手の中にある包みを見つめている幸村を見て、
政宗はなんだか不安になってしまった。
男のくせにバレンタインデーなどと浮かれてウザがられているのだろうか。
それとも、幸村はチョコレートが嫌いだったか?
そんな不安に駆られていると、幸村の腕が政宗に伸び、
決して鍛え上げてあるとは言い切れない、細い肩を抱いた。
「これ、政宗殿が、わたしのために?」
「…ちがっ!お前はわしの話を聞いてなかったのかっ?!」
「でも、わたしに渡してくださったじゃないですか。」
「……うー……まぁ……その……。
そういうことにしてやっても……良いぞ?」
「うれしいです。すごく…うれしいです!政宗殿!」
政宗の肩に顔を埋め、力任せに擦り付けてくる幸村に、
痛い、と訴えるが、喜んでくれている幸村を見るのは、政宗も嬉しい。
幸村に渡してよかったなぁ…と思い、政宗の口元は自然と緩んだ。
「…幸村、ホワイトデーは三倍返しじゃぞ?」
「…っ?!三倍…っですか……」
例の呪文のようなお決まりのセリフを告げると、幸村が固まる。
けれど、すぐさま「政宗殿は、ホワイトデーに何が欲しいですか?」と優しく問い返すその声が、
政宗の心に温かい気持ちを満たしていった。
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