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最強の
「政宗殿。わたしは、あなたの最強の矛になりましょう。」
「…あぁ。」
「あなたが命ずるなら、上杉も倒してみせます。」
書物を読みふけり、幸村の言葉に生返事しか返さない政宗。
こちらを振り向かせたく、幸村は熱っぽく、政宗の宿敵・上杉の名を出した。
「…幸村、おまえ兼続と友人なのではなかったのか?」
「政宗殿の御為なら、敵対することも厭いません!」
「幸村……」
見事、幸村の謀は成功し、読んでいた書物から、政宗が顔を上げた。
そして真剣な幸村に問い返す。
してやたり、と胸中拳を握りしめ、幸村は更に続けた。
その後に続く政宗の呆れたような溜息交じりの言葉すら、幸村には心地良い。
少し考えたあと、政宗は「好きにせぇ」と呟き、再び書物に視線を落とす。
政宗には見られないように、幸村はにっこりと微笑む。
素っ気無い言葉ではあるが政宗が照れているだけという事が分かるから。
一体、何時の間に、政宗の挙動や心の機微など感じ取れるようになっただろう。
それを思って幸村は嬉しさに頬が緩む。
「政宗殿。わたしは、あなたの最強の盾にもなりたいのです。」
「…幸村…」
「あなたを何もかも全てから、守って差し上げたい。」
「…幸村…」
今度は困ったような表情で、幸村を見つめる政宗。
「全ての矛先から、あなたをお守りする。」
強い幸村の口調に、ふっと政宗が息を漏らし、微苦笑した。
「お前にかかっては、中国の古語もその意味を成さぬな。」
「そうでしょうか?」
「一人で、最強の矛と盾になると言うのじゃろう?」
穏やかに笑う政宗。
幸村は、ずっとこの時が続けば良いと、そう思っていた。
「じゃがな、幸村。お前は、自分の道を選ぶ。もののふじゃからな。」
柔らかく、幸村の頭を撫でながら、政宗は幸村の甘い幻想を打ち砕く。
「わしが惚れ込んでおるのは、自らの信念を貫く"真田幸村"よ。
伊達政宗ごときに骨抜きになる真田幸村など、笑い話にもならぬ。」
「…申し訳、ありません……」
二度とその話、するなよ。と念を押し、政宗は再び書物に視線を落とす。
幸村は、どこか寂しそうな政宗の小さな体を、抱きしめるしかできなかった。
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