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豪烈。
クリスマスの小咄。

ぬるくべたべたなクリスマス。

*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

イブ


『今年のクリスマスは一緒に過ごせるよ』

(…そう言ってたのに。烈兄貴の大バカやろー。)

豪は、情けなく鼻の置くがツンと痛むのをごまかすように、
乱暴に目を擦った。

1歳差、というのは、実はものすごく損なのではないか、と豪は思う。
中学に上がってからというもの、季節のイベント事を楽しむことが出来るのは2年置き。
烈の受験があり、豪の受験がある。
それが終われば1年ゆっくり過ごすことが出来るが、また烈の受験シーズンがやってくる。
その繰り返しで、思春期真っ盛りな豪にとしては
(ひとつしか違わないから、烈にとっても思春期なのだが)
かなりの我慢が強いられるのだ。

去年は豪が受験の年だった。
なんとかかんとか高校にも合格して、
今年は二人でのんびり過ごす事ができるクリスマスだと思っていたのに。
よりにもよって、烈に急遽バイトのシフトが入ってしまった。

やはり年末年始はどこも掻き入れ時なのか、人手が足りなくなる。
人当たりの良い烈は、バイト先の店長に断りきれずにバイトを引き受けてしまったらしい。
とは言っても、未成年のバイトだ。
そこまで遅くなることはないのだけれど。

今日は運よく両親が不在。
二人きりで過ごすことが出来るクリスマスだと思っていた分、
削られる時間のあまりの多さに、豪は泣きたくなってくる。

時計を見れば、短針は10を指していて、もうすぐ烈が帰ってくる。
寒い夜道を帰宅する烈のために、部屋を温めて、母が準備してくれていた、
クリスマス用のご馳走を温めなおした。

「ただいま」

部屋に冷気が入り込んできた、と思えば、続いてふわりと甘い香り。
特にコロンをつけているわけでもないのに、
豪にとって烈からはいつも甘く良いにおいがする。

「おっせーよ、烈兄貴!」

飛びつくように、ソファから立ち上がり烈を抱きしめる。
今では烈を追い越してしまった身長が、烈をすっぽりと包み込んだ。

「悪かったな、豪。待っててくれたのか?」
「あったりまえだろ!」

烈の首筋に頭を埋めるように、豪はさらに腕に力をこめた。
そんな仕草に苦笑しながら、烈はやんわりと豪の腕から逃れ、コートとマフラーを取る。

「とりあえず、腹減った。ご飯食べよう。」
「おぅ!かーちゃんがすっげーご馳走作ってったぜ!!」

特に自慢することでもないのだが、自慢げに豪が烈を食卓へ促した。
お互い席について、ご馳走を囲む。

「メリークリスマス、豪」
「メリークリスマス、烈兄貴」

ふわりと微笑む烈がとても綺麗で、豪はそれだけで寂しさも忘れて幸せな気分になった。

「なぁなぁ、俺さ、サンタにプレゼントお願いしたんだけど。
今日届けてくれっかなー」
「なぁにメルヘンな事言ってんだよ。」

いたずらっ子のように烈を覗き込んでくる豪に、烈は苦笑した。
こうやって話を振るときの豪は、ロクな事を考えていない。

「赤くって、俺の腕の中にすっぽり納まる、
すっげー綺麗な人、お願いしたんだけど…」
「……何のお願いだよ…」
「だから、プレゼント!」

豪の、婉曲なんだかストレートなんだか解からない言葉に、些か赤面しながら、
烈は目の前のサラダに手をつけた。

「クリスマスなんだし、サンタはきっと俺のお願い聞いてくれるよね?」
「……いい子にしてたら、な…」

更に覗き込んできた豪の視線に耐え切れず、
顔を赤くしながら烈はそっぽを向いた。

予定外に二人きりの時間は短くなってしまったが、
その分豪はサンタからかなり豪華なプレゼントを貰った。
一方烈は、バイトに借り出されるわプレゼントを強請られるわで、少々疲れた一日となった。




「なぁ。烈兄貴はサンタに何をお願いしたんだよ?」
「んー?青くって、おっきな犬みたいに手に負えない恋人が、
ずっと側に居てくれますようにって。」

肌を合わせた後の気だるさに、ふわふわと睡魔にも襲われて、
心地よいまどろみの中に居た烈は、思わず正直に告げてしまい、
その後明け方まで青く大きな犬のように手に負えない恋人に放してもらえなかった、らしい。

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