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落ちる
初めて会ったあの日、夢にまで出てきた。
頭の先からつま先まで、漆黒の、死神様の息子。
髪は一部、色が白く抜けていたがそれが強く印象に残ったのだろうか。
ブラック☆スターに散々な目に合わされ、
最後は当の本人から強烈な蹴りまで喰らったというのに。
何とかかんとか理由をつけて、勝負は『勝ち』としたが、実際『負け』ていた。
失神して倒れた白皙。
伏せられた目元を彩る長めの睫毛。
死神様に連れて帰られるまでの数瞬、まじまじと見た顔が、
寸分の狂いなく夢の中に現れる。
ゆっくりと瞼が持ち上げられて、次第に露わになる金色。
朝日とも、夕焼けとも、月とも言える絶妙な色合い。
夢の中なのに、かなりリアルだと思った。
名乗った覚えも、名前を呼ばれたこともないのに、
少し低めの声で『ソウル』と呼ばれた。
その音が脳髄から身体のすみずみにまで行き渡って、
反射のように一気に心臓へ血液を送ってくる。
ドクドクと高鳴る鼓動に、目が覚めた。
「……マジ、かよ……」
今まで悪夢以外で誰かを夢に見るなんてことはなかった。
起きたとき、ここまで激しい動悸を訴えることもなかった。
気づけば喉がカラカラに乾いていたが、
それは季節関係なく乾燥しているデス・シティーの気候のせいではない。
ベッドの上で、一つ深く溜息を吐く。
冬の朝は遅く、まだ日も昇っていない。
目覚ましすら鳴る前に起きてしまったのだから、当然外はまだ薄暗く。
ソウルは二度寝の前にキッチンへと赴いた。
冬の空気は冷たく、裸足には床がとても冷たかったけれど、
夢から覚めたばかりの身体は火照ったように熱くて、逆に心地よかった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、一口・二口と飲む間に、
夢がフラッシュバックしてくる。
ただ、デス・ザ・キッドが自分の名前を呼ぶだけの夢。
ゆっくりと瞼が開き、彼の目が自分を見据えるだけの。
たったそれだけの夢に、どうしてここまで取り乱すのか解からなかったが。
あの瞳の色が、声が、面白いくらいの性質が、決して嫌いではなく、
むしろ好きだと思った。
もう一口水を飲み、ふぅっと息と吐くと、ソウルはふと、気づかぬうちの声にだしていた。
「そう…嫌いじゃない。好き…だ。」
はっきりと音にして、己の耳で己の声を聞き、
ソウルは納得した。
(あ…そっか、俺、アイツを嫌いじゃない。つーか、好きになっちまったんだな…)
まだ寝ぼけているのかも知れなかったが、
ソウルはひとしきり納得をすると、再び自室のベッドにもぐりこんだ。
冷えた身体に、まだ温もりを残した布団が気持ちよかった。
今日、授業が終わったら。"見舞い"と称して会いに行こう、そう思いながら
再びまどろみの中に身を委ねた。
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