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まさかのホワイトデー
「政宗サン、政宗サン」
呼びかけられて振り返ると、日本史教師の島左近が立っていた。
秘密らしいが、左近は三成の遠い血縁で、仲が良いらしい。
気難しい三成と上手やっていけるというだけで、政宗は興味を惹かれていた。
「…なんじゃ、左近」
三成がそう呼ぶせいか、政宗もついつい呼び捨ててしまうが、
ここは一応学校で、左近は政宗の教師でもある。
あ、っと気付いて、慌てて「島先生」と言い直した。
そんな政宗を見て、左近は「ちょっと良いですかねぇ?」と声をかけてくる。
左近は何故か中途半端な敬語を使う。誰に対しても。
『ちょっと来い』とか『ちょっと来なさい』でも良いだろうにと思うが、
なんだかこの言葉の方が左近らしくて、政宗は好きだった。
人気の無い廊下に連れて来られると、左近は何やら政宗に包みを渡す。
可愛らしくラッピングされたそれは、どうやらプレゼントらしい。
「これ、もらってもらえますかねぇ?」
「わしに?」
大きいわけでも、小さいわけでもない、手のひらに乗るサイズのそれを、
政宗は受け取って、「開けても良いか?」と左近を見上げる。
「どうぞ」
にっこりと笑う左近は、すごく大人に見える。
何時かは、こういう大人の男になろう、と心ひそかに思っている政宗は、
訳もなく顔が火照るのを感じながら、リボンを解く。
「…マシュマロ?」
「正解です。」
でも何故急に?という政宗の表情を読み取って、
左近は腕組みをしながら、自身の顎を撫でて軽く瞑目しながら告げた。
「いつも殿がお世話になっていますし…。左近からの感謝の気持ちです。
本当は、特定の生徒にこういった事はマズイんですがねぇ…。
学校でないと、政宗サンには会えませんし。」
左近の言葉に、政宗はきょとんとした後、数度、瞬いた。
「三成が世話になっているから、わしに菓子を…?
教師なら、名簿を調べて住所くらい、分かるじゃろ?」
至って普通の疑問を口にしたが、左近は笑うだけだ。
「職権乱用はしない主義で。それに、まぁ殿の事は、口実みたいなもんです。」
「口実…」
政宗が手に持ったマシュマロの袋を、左近はひょいっと取り上げて、さっさと封を開けてしまう。
「あ…」と政宗が声にした時には、すでに一つ取り出していた。
そしてそれを、そのまま政宗の唇に押し当てた。
「んぐっ」
マシュマロを"むに"っと押されて、反射的に口を開くと、ふわふわの甘い食感が口内に広がる。
「政宗サンが、好きですよ。
でも、返事が欲しいわけでも、政宗サンからお返しを貰おうとも思ってないんで。
あえてこの日を選びました。」
左近は、マシュマロを政宗の手に返して、「じゃあ」と背を向けて去っていく。
もごもごと口を動かしながら、政宗はその背に向かって呟いた。
「…返事が要らぬ……か…。本当は、"返事を聞く勇気がない"の間違いじゃろう。」
ふんと鼻を鳴らして、政宗はマシュマロをもうひと粒、口に入れた。
ふわふわなのに、溶けない。ほのかに甘いマシュマロ。
好きだと言いながら、政宗の返事を聞こうとしない、けれどどこまでも優しい左近のようだ、と
政宗は思った。
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