*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
死神ホワイトデー
今日は、ホワイトデー。
毎年毎年、くだらないと思ってはいたが、
キッドからもらえないと凹むソウル。
実際、キッドからは『モノ』という形あるものではなく、
毎年別の"方法"で貰っていたことが判明した。
照れくさいような、恥ずかしいような…。
そんな気持ちが交錯する中、ソウルは一人、お返しは何にしようか、と思案していた。
ここは王道でクッキーやマシュマロという手も捨てがたいが、
バレンタインデーすら正しく認識していなかったキッド。
(まぁ、それは死神さまやマカが原因だったのだが。)
王道のお返しで気持ちが伝わるとは思えなかった。
―――だから。
少し気障だとは思いながら、ソウルはあるお返しを思いついた。
口当たりが良く、滑らかだと評判のクーベルチュールチョコレートと
生クリーム、香り付けのリキュール。
そして選びに選び抜いたメインの材料。
「うっし!じゃあ始めるか。」
購入した材料を眺めた後、
腕まくりをして、ソウルはキッチンに立った。
「キッド!」
ホワイトデー当日、目的の人物を見つけて、ソウルは声を掛けた。
前日作っておいたホワイトデー用のチョコレートを入れた小箱を持って、
振り向いたキッドに走り寄る。
「ソウル、そんなに慌ててどうした?」
苦笑しつつ、ソウルがキッドの隣に立つのを待って、首を傾げる。
「これ、ホワイトデーのお返しやるよ。」
「…俺に?」
キッドの前に、頑張ってラッピングした小箱を差し出すと、
うれしそうにそれを受け取った。
「まぁ、カタチは不恰好だけど、味は良いはずだぜ。」
食べてみろよ、と促してソウルはキッドが小脇に抱えていた書籍類を変わりに受け取る。
両手が自由になったキッドは、少し嬉しそうな顔をして、
軽く頷くと、リボンを解き始めた。
箱を開けると、そこには大きめ目のまるいチョコレートが一つ。
それを見て、キッドはふふっと様相を崩す。
「作ったのか?」
「おぅ!まぁな。」
チョコレートを口に運ぶキッドを見て、ソウルもドキドキとしてしまう。
ベタかなとは思ったものの、中にはペアリングの片割れを入れておいた。
ソウルはすでに装着しているそれ。
少し太めのシルバーのデザインで、キッドの指にきっと似合うと思った。
気障な演出かと思ったが、よろこんでもらいたいと、
ソウルはチョコレートの中にリングを入れておいた。
…もちろん、リングはピカピカに磨いたあと、煮沸消毒してある。
キッドの反応にドキドキとしていると、
チョコレートを口にいれてもごもごしていたキッドの口内から、
『ガチンっ』と大きな音が聞こえてきた。
(おっ!当たった!!)
どうやらリングがキッドの歯に当たったようだ。
ソウルはそわそわとキッドの様子を見つめる。
すると、キッドは一瞬眉を顰めたが、
続いて『ごりっ』『ぼりっ』と音を立てて咀嚼を続けている。
「…えっ…?!……えぇ??!…おいっ!キッド…!!」
ありえない咀嚼音が続き、ソウルも冷や汗が出始める。
まさか…そんな馬鹿な…と思いつつ、
信じがたいその事実をただじっと見つめるしか出来ない。
口は、開いていたかもしれない。
そして、ごりごりという音も次第に小さくなり、
さいごには、『こくん』という、キッドが小さく喉を鳴らす音で終わった。
「…ん…なにやら異常に硬かったが、なかなか美味かったぞ、ソウル!」
満面の笑顔で告げられると、ソウルも、「あぁ…そっか…よかった…」と
心虚ろの状態で答えるしかない。
そんなソウルを不思議そうに見つめながら、
キッドはソウルの手から書籍を受け取って、颯爽と立ち去っていった。
「つか…え…マジでか…?!
死神って、金属まで食うの……?」
ペアで買ったリングは結構高かった。
しかし、ソウルの左手中指に納まるその指輪の片割れは、
キッドの腹の中だ。
「…腹…こわさねーと良いけど…」
もはや、それしか言葉に出来なかった。
ちなみに、キッドはピンシャン元気にしている。
PR