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第三段。
 
無双で、幸村 → 政宗 ← 三成
でも、幸村は出てきません。
政宗は、どちらも歯牙にもかけてはおりませんが、いろいろと巻き込まれています。
(※思いのほか、三成がおこちゃまです。)
 
大丈夫な方は「つづき」よりどうぞ。


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

壊す
 

「お前が、幸村が懸想している伊達政宗か。」
「…その枕詞は良く分からぬが、いかにも、わしが伊達政宗じゃ。」

忍城攻めのための軍議の後、石田三成は、大男達の間に紛れてしまいそうな、
小柄な武将を見つけて呼び止めた。
先ほどまで、前田慶次と一緒に居て、その頭を大きな手で撫でられていたためか、
幾分髪の毛が乱れ、政宗の表情は三成を訝しんではいるものの、
全体的な印象を幼く見せていた。

「ほぉ。どんな奴かと思っていたが。可愛らしい顔立ちをしているな。」

三成の言葉に、隻眼が鋭く細められた。

「…喧嘩を売っておるなら、買うぞ?」

剣呑な空気を破るどころか、三成はさらに口角をゆがめて、政宗に告げる。

「幸村は、お前のような子供の、どこが良いのであろうな。」
「さっきから訳の分からぬことをごちゃごちゃと言いおる。
貴様、一体何のつもりじゃ。」

歩み寄る三成に、政宗は警戒心一杯に距離を取ろうとする。
その行動を嘲るように、三成はどんどんと政宗との距離を縮めた。
そして、ついに政宗の背は、土壁に当たって逃げ場を失う。

三成よりも下にある政宗の顔の両端に手を突き、軽く囲ってしまえば、
その身は、すっぽりと三成の影に隠れてしまう。

「幸村は、床でお前を優しく扱うか?」
「何の話じゃ。」
「それとも、お前が幸村を愛してやるのか?…いや、無理だろうな。」
「だから、貴様は一体なんの話をしておる!」

三成の言葉の意味が分からずに、短気な政宗は苛立ちを露わにした。
けれど、すっと三成の形の良い指先が、政宗の戦装束の首を寛げ、筋を撫でる。
この行為に、流石の政宗も話の内容が読めた。

「馬鹿め。勘違いも甚だしい。この手をどけよ。無礼者め。」

合点の言った政宗は、容赦なく三成の手を叩き落とすが、それでも三成の言葉は止まらない。

「幸村は、己の信念を貫くためだけに生きている。
あの朴念仁が始めて他人に興味を持った相手だというから。
一体どんな奴かと思ったが、子供で、意外と普通だな。」

三成の言葉に多々反論はあるが、政宗はぐっと堪えて睨みつけるだけに留まる。
おそらく三成に何を言ったところで無駄だろう。
話の始点から見当違いをしている上に、聞く耳を持つ風情ではない。
政宗と幸村には何の繋がりもないし、もし、三成の言うとおり幸村が政宗を好いていたとして、
政宗はその好意を受け取るつもりは無かったからだ。
三成に取り合うだけ時間の無駄というもの。

「例えば、お前にわたしの所有印があったとしたら、幸村は嫉妬するか?」
「…貴様が何をしたいかは分からぬが、貴様等、兼続とあわせ三人、友なのだろう?」
「そんな安い絆、俺は今まで沢山捨ててきた。」
「はっ!言いおるわ。」

三成の言葉を兼続や、件の幸村に聞かせてやりたい。
特に兼続などは過敏に反応するだろう。
その様を思い描き、政宗は内心ほくそ笑む。

少なくとも、"友"という絆を大切にするだろう三成が、自らその絆を断とうとしているのだ。
見物する分には、面白いことこの上ない。
兼続が憤慨する姿を考えるだけで、胸の空く想いだ。

知らず、政宗が口角を上げている間に、三成の顔が間近に迫っていた。

「何の心算じゃ?」
「別に。たまには俺も、幸村が憤慨する姿を見たくて、な。」
「綺麗な顔して、中身は悪党じゃな。」
「なんとでも言え。」
「じゃが、三成よ。わしのこのような事をしても、無駄じゃ。
幸村は嫉妬などせぬ。なぜなら、わしと幸村はそういう関係ではない。」
「…何も知らぬ子供はこれだからな。」

見下すような三成の言葉に、政宗が怒りの声を上げようとした瞬間、
首筋にちりっとした痛みが走った。
戦装束で隠れるすれすれの位置に一つ、赤い花びらが散る。
間髪入れずに、今度は首筋に痛みを感じ、政宗は慌てて三成の方を押し返す。
流石に、この位置は着物で隠れるものではない。

「馬鹿め!一体なんのつもりじゃ!!」
「言ったろう?幸村が憤慨する姿が見たい。」
「わしをダシに使うのは止めてもらおう。」
「お前が一番効果的だ。」

今つけたあとを、三成が指で辿る。
その感触に、政宗の背をぞわぞわとした何かが走っていった。

「壊れてしまえばいいのだ。お前達の仲など。
幸村が、大切に育もうとしている想いなど、壊れてしまえ。」
「一体、何があった三成。」

あまりの三成の行動と言葉に、政宗は行為を責めるよりも、"何故"と問うてしまう。

「フン。その身をもって知れ。
幸村がお前に抱いている想いは、決して綺麗なものではない。
深く、もっとどす黒いものだ。」
「……何故、貴様にそのような事を言われねばならんのじゃ。」

未だその身を囲われたまま、政宗は三成を睨みあげた。
その表情に満足したのか、三成は笑みを深くする。

「お前を見つけたのが、アイツの方が先だから、とつまらぬ理由で
俺からお前を遠ざけようとするからだ。
今から幸村に会って、反応を確かめてみろ。」
「子供なのは、貴様の方らしいな。一度頭を冷やせ。」
「その後を幸村に見られて、説明した後でも、同じ言葉が出てくるか、見物だ。」

政宗は、反対側の手も力強く払いのけ、三成の肩を渾身の力で押す。

「貴様、一体何がしたい?!」
「壊したいのだよ。お前の中の幸村への想いも、幸村が築こうとしている、
お前との関係も、な。そして、お前は俺のものになれば良い。」

三成の言葉に、政宗は一瞬、虚を突かれて瞠目するが、
やがてゆっくりと笑い出した。

「ははははははっ!」
「…何が可笑しい。」
「壊してみるが良い。貴様と違って、幸村の方が大人じゃ。」
「なんだと?」
「それに、真正面から向かってくる分、好感も持てる。」
「………………」

押し返した体に、政宗がふと寄り、三成の顎にその白い指先を掛けた。

「わしが欲しいなら、欲しいと言え。
素直な分、幸村の方が好きじゃ。下らぬ策など講ずるな。」

政宗の言葉に、今度は三成が瞠目する。
そして反射的に体を引いて、政宗を解放してしまった。

「壊したくば、壊すが良い。わしにとって痛くも痒くもないわ。」

言うだけ言って、政宗は立ち去る。
この所有印のせいで、これから襲われる、"幸村の嫉妬"という厄災も知らずに。
 

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