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態度
「……千客万来だな…・・・」
「何か言ったか、死神?」
「いや、なにも。」
ギリコが出て行ったかと思いきや、今度はゴフェルがやって来た。
ノアの一味は一体何をしているのだろう、とキッドが不思議に思っても、
それは致し方ないことだろう。
わずか1時間の間に、入れ替わり立ち替わり、誰かがやってきてはキッドに構って去っていく。
キッドに構う分、父・死神や死武専の仲間に危害が及ばないのであれば、
申し分ないのだけれど。
キッドの足元には、ゴフェルが膝を抱えて座り込んでいる。
膝を抱えた腕に頭を乗せて、ただ座っているだけのゴフェル。
どう声を掛けたものかも分からず、またゴフェルが何を考えているかも、
キッドには分からない。
少し前には、散々殴る・蹴るの暴行を受けた。
マカにやられた腹いせらしいが、今は大人しく…というより、むしろ
しぼんだ風船のように覇気がない。
「俺には、ノア様が全てなんだ。」
「……そのようだな。」
「ノア様だけ居れば良い。もっと言えば、ノア様と俺だけが、存在すれば良い。」
「………」
「でも、それは出来ないってノア様に言われた。」
キッドの答えは期待していないのだろう。
ゴフェルは淡々と語っていく。
「ノア様にはしなきゃならないことがあるって。
俺は、その手伝いのために作られた。ノア様の言葉は、俺にとって絶対。」
そこで、ふとゴフェルは顔を上げて、ぼんやりと遠くを見つめた。
キッドの足に体を預けて、キッドから見える部屋の景色を見る。
「…ノア様を満足させられるのは、俺だけだって思ってたけど、
そうではないかもしれない。」
「………」
「死神、お前が、ノア様の望み…なのかもしれない。」
「……俺が?」
キッドは少し身じろぎして、ゴフェルの顔を伺おうとするが、
自由の利かない体では、難しいことだった。
今キッドの視界に入るのは、殺風景な部屋と、部屋の扉。
そして、ゴフェルの黒い頭。
「俺も、ノア様の望みになれれば良いのに。」
「お前がいなければ、ノアの存在も、意義を成さないだろう。」
「……そう、思うか?」
「あぁ。」
「なんで断言できる?」
「……それは…」
キッドはとっさに口ごもった。
ノアは、父である死神が、エイボンと供に作った魔道具だ、と言えなかった。
絶対の存在としているノアの秘密を、ゴフェルが知ったらどう思うだろうか。
それに、愚考とも思えるこの魔道具を、
キッドはまだ、父・死神の手によるものだと認めたくなかったのだ。
「お前みたいなコレクションは良い。ノア様に愛されるから。」
「お前も愛されてないわけではないだろう。」
ノアの態度や言葉から、それはなんとなく感じ取れる。
確かに冷たい目をしていることもあるが、それはプログラムに制御されている間だろう。
「良く、分からないな…」
「そのうち分かる。」
キッドの言葉に、ゴフェルは腰を上げた。
「…お前、良い奴かも知れないな、死神。」
「なんなのだ、急に?」
「ノア様が望むのも、分かる気がする。」
「……?」
ゴフェルは、あとは何も言わずに扉へと歩いてゆく。
何に納得したのかは分からないが、キッドはとりあえず、その背を見送った。
何も言わずに部屋から出て行くゴフェル。
「…一体、なんだったのだ。」
ふぅ、と溜息を吐くと、先ほど出て行ったばかりのゴフェルが、
戸口から再びこちらを見ていた。
顔だけだして、体は扉に隠れている。
そして、酷く言いにくそうに口をもごもごと動かした後、
小さな声で、キッドに告げた。
「さっきは、八つ当たりで殴ってゴメン。」
ゴフェルの言葉にキッドは一瞬目を見開き、
そしてゆっくり微笑んだ。
「ついでに、蹴りもな。」
「……お前、やっぱり厭な奴だな、死神。」
「お前程じゃない。」
「次は、ノア様に拘束を解いてもらえるよう、聞いてやるよ。」
「案外、ユルいな、お前達。」
「死神たちほどでもないだろ?」
ゴフェルも口角を吊り上げて、部屋を出て行った。
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