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壊す(豪烈)
「なぁ、烈兄貴ー」
背後からぺたり、とくっついてくる甘えたな態度。
烈はこの、豪の何時までたっても抜けない、兄べったりな態度が嫌いじゃない。
それこそ小学生だった頃は、ほかの兄弟と同じように、
反発も多かったし、ケンカも多かった。
けれど、何時頃からか、豪は、烈に素直に甘えるようになった。
今でもケンカが無いわけではないが、昔に比べれば減った。
その代わりにスキンシップが増えたように思う。
「な、兄貴聞いてる?」
ふと過去を振り返ってしまっていた分、豪への返事が遅れた。
再度、豪から問われて烈は呼んでいた雑誌から視線を上げた。
「悪い。ちゃんと聞いてるよ。」
ソファ越しに抱きしめられている体を、ゆっくりと反転させて、
烈は豪に振り返った。
そして、ドキリと鼓動が高まり、動きが止まる。
(…ちょっと、近すぎないか?)
異様に近くに豪がいる。
それこそ、鼻先が触れ合いそうなほどの距離。
さり気なく体を離そうとするが、豪にホールドされた体は動きそうにない。
悔しいが、成長期に烈の倍は成長したであろう豪との体格差は歴然で、
力では敵わない。
どちらかと言えば、両親に似て精悍な顔立ちの豪と、
隔世遺伝か、両親よりは父方の祖父母に似た烈の柔和な顔。
「可愛い」とか「綺麗」と表現される顔を、烈はあまり好いては居なかった。
その点、豪の事が羨ましい。
烈が理想とする顔立ちに近いのだ。
その、理想の顔立ちが間近にある。
ドキドキと、わけも無く鼓動が早くなる。
「なぁ兄貴、兄貴の手、見せて?」
「…手?」
動揺を何とか隠し、烈は近すぎて焦点の合いにくい豪の顔を見ようと、
頑張って距離を取ろうとするが、それより先に、豪に左手を持ち上げられる。
豪の、節くれだった大きな、男らしい手が、
烈の目の前で烈の手をにぎにぎと握る。
背後から抱きしめられたままの、この近すぎる距離に、烈の動揺は止まらない。
「な…なんだよ、突然。」
「いや、烈兄貴の手って綺麗だなーって思って、さ。」
「はぁ?何、突然。」
訳が分からない。
とにかく、烈は居心地が悪くて仕方ない。
この近すぎる豪との距離も、左手を豪に握られて、指を絡められることも。
「豪…とりあえず、一回はなれ…っ?!」
言葉に出そうとして、烈は大きく身を震わせた。
豪が、捕らえた烈の指を食んだのだ。
ゆっくりと、舌が烈の指を舐め上げる。
そのリアルな、ぬめる熱さに、咄嗟に手を引こうとするが、それは敵わない。
濡れたような音が室内に響き、烈の思考が完全に停止した。
(…何…なんだよ…これ……)
混乱する頭で考えるが、その考えは取り止めもなく、
ただ、豪の行為を甘んじて受けるにとどまる。
その間に豪の行動はさらにエスカレートしていき、
指一本一本を丁寧に舐めていく。
そのうち、指を辿る唾液が、烈の手の甲を、手首を汚していく。
「豪…っ!」
「…いや?」
「っていうか…可笑しいだろ?!」
「なにが。」
しれっと言い返す豪に、烈の心拍数は上がりっぱなしだ。
「俺、ずっと兄貴が好きだった。
なぁ、兄貴を俺のものにして、良い?」
「お前…何言って…?」
「今日、俺らだけなの知ってる?」
確かに、今日両親は町内会の旅行に出かけてしまっている。
高校生にもなって、両親が居なければ何もできない、という事はなく、
烈も豪も、快く二人を送り出したばかり。
そう、それは分かっているのだが。
だからといって、この急展開はどうなのか。
「豪、少し、話をしないか?」
「ダメ。俺もう、我慢も無理っぽいから。」
左手は捕らえられたまま、豪の吐息が、唇が、烈のうなじに触れた。
瞬間的に震える、烈の細い肩。
「いやだったら、俺を止めて。
そうでないなら、俺を受け入れて。」
「そんな、急に……俺達は兄弟だし…」
「うん。知ってる。だから、俺がそれを壊す。」
その言葉を最後に、豪は烈の体を暴いていった。
烈も、何かをぐるぐると考えている間に、面倒くさくなり、
そのまま受け入れてしまった。
そう、この暴挙とも取れる豪の行為を受け入れられるほどに、
烈もまた、豪の事が好きだったのだ。
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