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デス・ザ・キッド。
死神様の掌中の珠。
眉目秀麗。有智高才。不撓不屈。完全無欠。
彼を表現する言葉はたくさんある。
でも、"完全無欠"ではないかも知れない。
極度の左右対称愛好者だし、なによりも、隙が無いように見えて隙だらけなのだ。
死刑台屋敷でお茶会を開くことになった。
なぜこうなってしまったのか、経緯はもう覚えていないが。
そして、なぜ"お茶会"なのに、酒まで混じっているのかも、今では分からない。
酒につまみにお茶にケーキ。
とにかく種々雑多なメニューが大きなテーブルの上に広げられている。
最近ではオックスやハーバー、キムたちも混じっている。
これだけの人数が集まってもちっとも閉塞感を感じないから、
死刑台屋敷の広さは侮れない。
いつもはこの家にキッドとトンプソン姉妹しか住んでいないのかと思うと、
少々寂しい気もするが。
「…おい…こいつに酒飲ませたの誰だよ。」
キリクの言葉に全員が苦笑いをこぼす。
ブラック☆スターのテンションが異常に高い。
酒を飲むといつもこうなのだ。彼は。
いつもよりも更にテンションが高く、絡み酒になる。
側に座った相手に酒を勧めまくり、挙句さらに自分も飲む、という
周囲から見れば少々厄介な飲み方で。
底なしのトンプソン姉妹に椿、酒は好きだが自分の酒量を知っているマカ。
キムもジャクリーンも嗜む程度で状況を見守っている。
オックスはとにかくキムのかわいさを称えていた。
キッドは死神で酒類にも強く、ソウルもザルではないが、強めだ。
そんな中、無言で杯数を重ねるハーバー。
普段物静かな彼を、誰も気にすることなく誰も重ねられた杯数を知るものは無かった。
が、その時は唐突に訪れた。
「ハーバー、すまないが目の前のグラスを取ってくれないか?」
キッドがハーバーの目の前にあるグラスを取ろうと腕を伸ばしたとき、
ハーバーがその腕を軽く、けれど力強く引いてキッドを自らの腕の中に抱きこんだ。
「…ハーバー…?」
キッドの驚いた声に、まずはソウルが気づいた。
見れば、胡坐をかいたハーバーの膝の上、キッドが姫抱きされるように座らされている。
「…おいハーバー…」
ソウルが声を掛けた時には遅かった。
キッド自身もよく分かってなかっただろう。
キツイ酒の匂いと、サングラス越しの瞳にキッドが硬直する。
ぎゅっと強く抱きかかえられ、唇に酒精を感じる。
ぐっと舌が押し入ってくるのを感じ、流石に呆然としていたキッドもハーバーを押し返した。
「あ、キッドくん気をつけてくださいよ。
ハーバーは、限界を超えて飲みすぎると、キス魔になりますから。」
「……っぷはっ……オックス…そういうことはもっと早く…ん」
ハーバーを押し返すが、キッドの抵抗をものともせず、更にハーバーはキッドにキスをする。
ソウルも手伝って何とかかんとかハーバーの腕から逃れ、
キッドはしきりに唇を拭っている。
「うぅー…」
「……キッド…おまえなぁ……」
少々涙目のキッドに、低い声のソウル。
それでも、一生懸命にスーツの袖で唇を拭う姿は可愛い。
「…なんだ…何が言いたいっ」
いくら油断していたとは言え、酔っ払いにアッサリ体を押えられ、
さらにキスまでされたことが悔しい。
それが前面に押し出されているから、ソウルとしても二の句が告げられない。
「…なんでもねーよ。」
「言いたいことがあるなら言え!
どうせ、酔っ払いにキスされるなど情けないとでも思っているのだろう?!」
「ちげーよ…」
「じゃあなんだ。」
「なんでもねーって。」
「……そんな何か言いた気な顔して、何でもないと言い張る気か?」
ぷくっと頬を膨らませて、非常に機嫌が悪いキッド。
ほぼ事故とはいえ、キスをされて正直面白くない。
その上、何か言いたそうな顔をするソウルに、さらに気分はささくれ立つ。
逆にソウルはそんなキッドを見て、諦めにも似た溜息をついた。
(…言えるわけねーよ。酔っ払い相手に嫉妬してるだなんて。それに、油断しすぎだろ、キッド。)
ソウルはゆっくりと親指でキッドの唇を拭うように撫でた。
少しだけ驚いたキッドは、そのソウルの仕草になんとなく全てが分かってしまった。
唇を撫でる指を、キッドは何も考えずにそっと舐めた。
「…っ……!!」
驚いたソウルの表情に、キッドは少しだけ胸のすく思いがした。
周りは酒に飲まれていて、二人には気づいていない。
ふっと笑って、キッドはソウルの耳元に囁いた。
「なんだ、嫉妬なら嫉妬だといえば良いではないか。
意地っ張りだな、お前も。」
「……言えるもんなら言ってるよ、ちきしょー。」
赤面するソウルに、キッドはそっと微笑んだ。