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侵食
触れられる箇所から、何かが流れ込んでくる。
それが何であるのかキッドには良く分からなかった。
いろいろなモノが綯交ぜになったような。
ドロリとした粘着質な何か。
ソウルに触れられる指先から、腕、肩や首筋から、それは侵入してくる。
言いようのない不快感。
けれどその中に確かに混ざる、高揚と安堵、そして充足感。
おかしいと思う。
相反することを感じてることに。
でも今はそれ以外に感じることも、表現することもできなかった。
ソウルの犬歯が、キッドの柔らかな首の皮に埋まる。
痛みは感じない。
皮膚を食いちぎられるほどの強さではないから。
ただそこから広がる、粘着質な波動と痺れるような甘さ、その相反する感覚がキッドを支配していく。
(…子犬がする甘噛みみたいなものか…)
キッドは押し倒された机の上でぼんやりと天井を見つめながら考える。
時折、乱れたソウルの呼吸がキッドの呼吸をも乱す。
脳内は冷静だが、既に呼吸は乱されていた。
短く、荒い呼吸が繰り返される。
ソウルに触れられる度。
シャツのボタンやベルトのバックルなどは外されて、
気づけばジャケットなど視界にも入らない。
きっちりかっちり掛けておかないと皺になる、とか、
バックルの重みで一緒に落ちて行ったスラックスの折目が…等々、
考えることもすぐに救済しなければならない事態もすべて承知の上で、
今この状況から逃れられずに居た。
誰もいない教室の机の上で肌を晒す、この行為。
身体中をソウルの手が、舌が、視線が這い回る。
触れた先から、ゾクゾクと身を震わせる感覚が迫上がってくるのだ。
当初は困惑していたその感覚も、幾分なれた。
このドロリとしたものは、ソウルの感情の発露なのだろう。
酷く歪んで固執しているように感じ取れる波動だ。
「・・・・・・キッド・・・」
「なんだ?」
名を呼ばれて答えれば、ソウルの血のような瞳に、己の姿が映った。
半裸で、血の海に歓喜しているような自分が。
「・・・なんでもねーよ・・・」
何かを言いかけてやめたソウルは、再びキッドの肌に没頭した。
肌をなで、唇と舌で味わうように舐めあげて、舌を絡める。
唇に、首筋に浮く筋に、鎖骨、そして乳首に。
キッドの体はそのたびにヒクリ、と揺れるが、声を漏らすことは無かった。
感じていないわけではないが、
変に理屈っぽさの残るこの子供の死神は、感じる理由を捜しているのかも知れなかった。
ソウルはふっと溜息をつくと、キッドの体を余すことなく撫でた。
少しでも反応がある箇所は何度か撫で上げ、爪で引っかく。
そしてキッドの体を開いていった。
ソウルとしては、これ以上の焦らしは特にならない。
自らも、欲を早くキッドに埋めてしまいたくて仕方ない。
けれどどう進めるべきか。
もしまだキッドが『理屈』と戦っているようであれば、また今回もお預けかもしれない。
「…あぁ、そうか。」
不意に、行為の最中とは思えないようなタイミングで、キッドは呟いた。
「なんだよ?」
特にソウルの相槌は気にしていないようであったが、
キッドは構わず続けた。
「このドロドロしたものは、ソウルの感情だな。」
「…はぁ?」
「お前に触れられるたび、俺の中に何か得体の知れない感情が流れ込んでくる。
それがなんなのかと、ずっと気になっていたんだ。
だが、それがソウルの感情だとすれば、なんとなく納得も行く。」
一人、頷くキッドに、今回もまたお預けかしら、と軽く天を仰いだところで、
組み敷くキッドから思いも寄らぬ言葉を貰った。
「で?今、覇気が無いのは何故だ?」
身に着けているものが、黒いソックスと、ピカピカに磨かれた革靴だけだというのに、
キッドは構わずそんな問いをしてくる。
「…じゃあ、ま、続けるか…」
一応、キッドを待って行為を中断していたのだが。
どうやら本人は気にしていないらしい。(もしかしたらこれからどうなるか、知らないのかも知れない。)
ソウルはそんな事を考えながら、それでも遠慮なく、
眼下に横たわるキッドの肢体から足を持ち上げて、左右に広げた。
キッドの羞恥が追いつく前に、口で直接追い上げる。
卑猥な水音がすぐにして、キッドの波長が酷く狼狽いしていることが分かる。
「な…っ…そう…?!」
「だぁってろ…」
口に含みながら喋ったせいか、与えられる快楽をやり過ごすキッドは身を小さくしていた。
ソウルの愛撫にもはや言葉らしい言葉は出ない。
時折鼻を抜けるような、甘ったるい呼吸音だけだった。
ソウルに触れられる全て、それらから不思議な感情を植えつけられる。
更に、中に出されてしまっては、なおさらそんな気がしてしまう。
「…嗚呼……お前に侵食されてしまう…」
キッドの言葉をどう受け止めたのか、ソウルは無言だった。
代わりに、キッドの唇へキスを落とし、緩く開いていた口先に舌を差し入れて貪った。
(俺は、いつかソウルで一杯になってしまう気がする…)
キッドの胸中の言葉を聞くものは誰も居なかった。
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