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絶対の不文律
小さな、小さなころから時に優しく諭すように、
時に怒り、恐怖と供に植え付けられるように、覚えさせられたこと。
『死は、万物すべての生き物に対して共通のこと。
だから、死神だけは、全てを平等に見なければならない。」
これは父の言葉だったか、デスサイズスの誰かの言葉だったか。
もう既にキッドに記憶はないが、その言葉を思い出して少し俯く。
この世に同じほど尊ぶべき魂など少ない。
例えば魔女の手先の者だった魂だったり、魔女そのものだったりした場合。
その魂をほかの魂同様、慈しむことは、キッドには難しかったのだ。
「それが、修行不足っていうんだよ」
と父から優しく悟られるが、それでもキッドには良く分からない。
散々喰われてしまった魂を思えば、いまこの魂などゴミ以下だといのに。
「キッド、死神は魂の前では必ず、平等でいなさい。」
このときの父の言葉はキッドには良く分からなかった。
…けれど。
時が数年経ち、キッドには新たな仲間が出来る。
中でもとりわけ気になったのが、珍しい、銀の髪と深紅の瞳を持つ、
ソウル・イーターだ。
すべての魂と平等に見ることなど、出来ない。
アレほどまでに輝いている魂を、俺は見たことがない。
キッドは感慨不覚ソウルに近づいた。
「?どうしたキッド?」
「…少しでも長く。お前を、と望んでしまうことは、いけないことか?」
「…はぁ?」
「いや…なんでもない…。」
良く分からない言葉にソウルは目を大きく瞬いたが、キッドが踵を返すと、なにやら不思議そうな顔をした。
そう。すべての魂を同じに扱うなんて、無理だ。
今での彼の魂を…ソウルの魂をより長く留めおきたいと願ってしまっている。
分からないのだ、みんな。
きっと、このソウルの金の稲穂のような、素晴しい魂の波長を。
少しでも長く留めおきたい。
少しでも長く一緒に居たい。
そうしたキッドの、神の身勝手から、ソウルは死ぬことを許されなくなった。
周囲が老いていく中、ひとり時間の流れが極端に遅くなったソウル。
こうしてキッドの望みのままに、ソウルは通常の人間の倍以上は生きた。
きちんと笑めば、陽だまりのような優しさだとか、
意地悪な言い方も相手を気遣っての事だとか、
気づけはそんな些細な事ばかり、目で追っていた。
はやり、己はこの魂が好きなのだ、と。そう全身が告げた。
ずっと側に居たい。
離れたくない。
けれど、肉体の方が先に滅んで逝く。嗚呼、やはり限界なんだろうか。
キッドはそっと、ソウルの腐りかけた指先を握った。
「すまない。俺が、不文律を破るような願いをしたばかりに…」
「良いんだ、キッド。良いんだ。気にすんなよな。」
相変らずおきな手が、キッドの漆黒を撫でた。
「あぁ。でも、そろそろ、眠い…かな…」
「ならば、眠ればよい。俺が見ていてやる。」
「…それは……たのもし…ぃ・・・・・・・な・・・」
ゆっくりと呟いたあと、眠るようにソウルは息を引き取った。
キッドはその髪を何度も何度も、愛おしそうに梳いた。
「父上は、知らないのだ。
この世で。特別な魂があることを…。不文律を犯してまで留めおきたい魂がある事を。」
キッドは確りとソウルを抱きとめ、そのまだ温もりを残す唇に、
小さくキスを一つ、落とした。
キッドが最初で最後、初めてソウルに触れた夜。
ソウルの魂は仲間より遅れること100年。ようやく眠いりについた。
神のエゴと、深い愛によって。
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