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まんなか
「よぉ。元気じゃねーか、キッド。」
「……次から次へと。何の用だ。」
貴様等、案外暇なのか?と付け加え、キッドは戸口に立つ大きな男を睨み上げた。
先ほどジャスティンが出て行った戸口からのそり、と入ってくるギリコ。
「あんまり邪険にするんじゃねーって。
ほら、食い損ねたんだろ?俺様がわざわざ、
食わせに来てやったんだろうが。」
「そんなこと、頼んだ覚えはない。」
「人の親切は素直に受け取っておきな、まだガキのくせに。」
傍のテーブルに置いてあった、まだほのかな温かさを残すカレー皿を取り、
ギリコはスプーンをキッドの口元に運んだ。
なかなか口をあけようとしないキッドに多少溜息を吐きつつも、
辛抱強く、キッドが自ら口をあけるのを待つ。
「コレ、外してやりてーが、ノアしか外せないんでな。
喰えるだけマシだと思って、大人しく口あけろ。」
無理やりにでも口にねじ込むことは可能だが、
逆に吐き出されても癪だ。それに、服が汚れる。
カレーの染みは落ちない。
お気に入りのジャケットにカレーの染みなど、御免だ。
少し考えたのか、暫くするとキッドがおもむろに口を開いた。
「よし、良い子だな。」
「…子供扱いするな。」
呟いてから、キッドは大人しくカレーをほおばる。
決して美味いとはいえないが、食べられなくはない。
それに、ジャスティンやギリコの言うとおり、食べておかなければ始まらない。
体力を落とさないようにしなければ。
「お前さ、まだガキなんだから。
もっと好きなように振舞えばいいんじゃねーの?」
キッドが嚥下するのを待って、カレーをすくって口元に運ぶ、という行為を繰り返す間、
ギリコは思っていた事を口にする。
偶々、廊下を歩いていたらジャスティンとキッドのやり取りが耳に入ったのだ。
ジャスティンに一方的に拒絶され、少し開いた扉の間から見えた、
小さな死神は、多少項垂れているように見えた。
ジャスティンの言葉が余程効いたのか、ギリコの気配にも気づいていないようだった。
「…何の話だ。」
一口、二口とカレーを咀嚼し、嚥下するという作業を繰り返す。
その合間にギリコに反した。
「誰かを救うとか、救えなくて悪いと思うとか。
そんなん、同い年のガキは考えねーだろ?無理してんじゃねーの、お前。」
「知った風な口を。」
「ああ。正直、俺には分かんねぇし、知ったこっちゃない。関係もない。
どっちかっつーと快楽主義者だしな。面倒な事は避けたい。」
「だったら、なおさら大きなお世話だ。」
ギリコから与えら得る前に、少し首を伸ばして、そのスプーンの上に乗せられたカレーを頬張る。
キッドもムキになっている感は、自らも感じていた。
「まー…。ほっときゃ良いんだろうケド。
なんか、お前って放っておけないっつーか、危なっかしい。」
「………」
「絶対無茶する気がする。」
「…だったら、なんだというのだ。」
別に。と呟き、ギリコは最後のひとすくいを、キッドの口に入れた。
最後の一口をゆっくりと嚥下し、キッドが口を開こうとしたタイミングを見計らって、
ギリコはストローを咥えさせた。
「飲んどけ。」
食事と一緒に水分も、という事なのだろう。
キッドは遠慮なく中の水分を吸い上げる。
「俺、お前のこと気に入ってるみたいだからな。
なんか、無理してるトコとか、見たくねー気がする。」
「………意味が分からん。」
「分からなくて良い。ガキにはわからねーだろうしな。」
ギリコの言葉に、キッドの眉間に皺がよる。
そんなキッドの頭に大きな手を乗せ、ぐしゃぐしゃとその髪をかき混ぜるように、撫でた。
「ま、あんま無茶すんなよ。
考え込むのも良くない。今は、体力落とさずに、どうやってノアに取り入るか、だろ?」
「……お前、本当にノアの仲間なのか?」
「俺は、アラクネ様だけだ。
ノアの仲間になったつもりはねーよ。ただの、利害関係の一致。」
ギリコは、空になったカレー皿とコップを手に、
戸口へと向かうため、キッドに背を向けた。
「……別に、俺は良いぜ。」
「何がだ?」
「アンタに救われるのも、悪くない。」
「…!!」
「あの爆音神父だって、本当はそう思ってるさ。
せいぜい、期待して待っててやるよ。」
じゃあ、またな。とギリコはゆっくりと部屋から出て行く。
扉が閉まる音が、やけに大きくキッドの耳に響いた。
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