*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
書状を開く指先。
筆を滑らせる手。
悩むように少し顎に添えられる甲。
小さなその仕草を逃さないように、幸村はじっと政宗の挙動を見守った。
「…幸村。そんなに見られては気になって仕方ない。」
たまりかねた政宗が声を掛けると、幸村は申し訳なさそうに謝った後、
ゆっくりと政宗の手を取った。
「幸村?」
「決して、女人のように滑らかな手ではないのに、どうしてでしょうか。
こんなにも心惹かれるのは。」
空いている方の手で、包み込むように撫でると、政宗が溜息をついた。
「幸村…こんな肉刺だらけの手を、女人と一緒にしては、女人の方が哀れじゃ。」
「そうですね。銃を扱っておられるし、剣だって握っておられる。
この手が握った筆先で、あなたの国の将来が決まる。」
未だ握りこまれたままの手に、政宗も視線を落とす。
いつもは手を握る、などしない幸村の行動に少しだけ、鼓動も高まった。
「そうじゃな、今はわしのこの手で、奥州の先が決まっておるな。」
「…お辛いときも、あるでしょう?」
「気遣いも出来るようになったか?」
政宗の悪戯っぽい視線を受け止めて、幸村も笑った。
「あなたの指先が好きです。あなたの手が好きです。」
「…お前にとって、わしは手だけか?」
「とんでもない。あなたの全てが好きです。だから…」
ここで少し言いよどんだ幸村に、政宗は続きを促した。
幸村から好きだと言われる事にはもう随分と慣れた。
初めはなんの冗談かと思ったが、どうやら本気である事も分かった。
だからと言って、幸村は政宗に何も求めず、ただ「好きだ」と告げるだけだったから、
政宗も特に何かする、という事はなかった。
けれど、目の前の幸村は、政宗に何か伝えようとしているようだった。
「だから?なんじゃ。言うてみよ。」
「…ずっと、あなたのお側で、見守らせてください。」
柔らかい笑顔とともに告げられて、政宗は思わず吹き出してしまった。
「ははははは!お前は女か!」
好きにせぇ、と続けて、少し臍を曲げてしまった幸村の頬を、政宗は空いている手で撫でた。
PR