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押しかけ女房がやってきた。
晩秋の奥州。
既に他の土地よりも早く、冬の訪れを告げるこの地に、
土煙と供に現れたのは、武田の赤を着る事を赦された武将・真田幸村だった。
あぜ道を、馬を飛ばし、凄い勢いで走ってくるのが分かる。
丁度、政務の予定として領地検分を行っていたこの日、
領土の境辺りまで来ていた政宗は、遥か遠くに見えていた土煙が、
まごうことなく、自身に向かって来ていることに気付いた。
「何事じゃ?」
近くに居た片倉小十郎に問えば、分かりません、との返事。
まぁ、そうだろうと予想はしていたが。
得体の知れない者の接近に、政宗は最悪の事態に備えて刀の柄を握る。
「…ぁ…・・・・・・ね…ど……むぅあ……・・・の~……」
轟音と供に聞こえてくる声は、良く聞き取れずとも、
己を呼んでいるのではないか、と政宗は思った。
武田の赤を纏い、政宗の名を必要以上に呼ぶ、猪突猛進の武将―――。
これらの情報を元に、向かって来るものは害はなしと判断して警戒態勢は解く。
だからといってこのままここに入れば、あの勢いで抱き潰されるかも知れない。
「…その兵の戦闘体制を解除させよ。」
「政宗様?」
「…おそらく、奴は客じゃ。じゃが、わしは城に戻る!」
一抹の不安を抱え、政宗はそう言い捨てると、くるりと反転してしまう。
そして軽やかに馬上に上がると、馬の腹を蹴って城へと戻る道を駆け始めた。
ようやくその頃、先ほどまで政宗が立っていた場所にたどり着いた幸村は、
息を切らし、髪を振り乱して政宗の所在を聞いた。
幸村が乗ってきたという馬も、相当な強行軍を強いられたのだろう。
口から泡を吹くほどに疲弊しきっている。
「ふぅ…あなたは、いつも静かにはやってこられないのですね。」
「あぁこれは片倉殿!申し訳ない。
領地をお騒がせしてしまったようですが…ですが今日は吉報を持って参りました!」
「吉報?」
「はい!」
なんの悪意も害意もない笑顔を向けられて、
小十郎は一瞬背に冷ややかな汗が流れた。
この真田幸村と言い、伊達政宗といい、「吉報」と言いながら、
吉報であったためしなどない。
小十郎は過去を振り返って、暫し考えた後、痛む胃を押えて深く息を吸い込み、吐く。
そして、心の準備を整えて、幸村に続きを促した。
「…で…政宗様が喜ぶような吉報とは?」
「縁談です!」
「縁談?!冗談言わないで下さい。政宗様にはもう愛様という御正室様がいらっしゃいます。」
「問題ありません!私が政宗殿のお心を射止めて見せます!」
握りこぶしをさらにぐっと握りこみ、
幸村はどこか自信に溢れた顔をしていた。
小十郎は、胃痛に加え、頭痛も覚えたが、
幸村のこの表情では、何を言っても無駄だろう。
それに、今の話を政宗にしたところで、どうせ散々に言われてしょげ返るに違いない。
そうなったらそうなっで、厄介ではあるが。
小十郎は小さく溜息を吐いて、
幸村に自らの馬の手綱を渡す。
散々走り続けてきて、泡を吹いていた馬をこれ以上酷使することは、
可哀相だったから。
幸村から馬を引き取り、自身の馬の首を撫でた。
「くれぐれも、大切に乗ってくれよ、真田。」
「承知いたしました。」
今まで乗ってきた馬の、大層疲弊した姿を見て
少しは心が痛むのか、幸村は馬上に上がると、先ほどよりも少しゆっくりと歩を進めた。
目指すは政宗の元。
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