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嫁、奮闘す。
政宗は、料紙に書かれた決裁内容、報告事項等を確認し、
筆を滑らせ決裁や指示内容を追記していく。
だが、その筆先は苛立ちを滲ませており、普段は流麗な字が、
太く大きく、崩れてしまっていた。
その原因と言えば、つい半刻ほど前に突然訪問し、
『嫁ぎに来ました』と訳の解からない事を柔和な笑顔で告げて、
さらに『食事を作ります』と言って御厨へ篭ってしまった、真田幸村である。
御厨と政宗の部屋は随分と離れているはずであるのに、
先ほどから何かが割れる音や、人の悲鳴などが絶たない。
騒々しいという範囲を超えて、城が壊れるのではないかといわんばかりに聞こえてくる。
もともと気の長い方ではない政宗。
その上、一方的に事を進めてしまう幸村への苛立ちも手伝い、
怒りはほぼ頂点に達していた。
政宗は、遂に筆を置くと、
向かっていた文机から立ち上がり、無言で部屋を出て、一直線に御厨へ向かう。
政宗が歩みを進める毎に、騒々しさが増していく。
そして―――。
「幸村ぁあぁぁああぁぁぁぁあ!!!!!」
目的地の御厨へ到着すると、政宗は一喝した。
「これは政宗殿!丁度良いところへ。
夕餉のお仕度が整ったところですので、今お持ちいたします。」
「こ・れ・の、どこが、食い物じゃと?」
得意気に膳を掲げる幸村と、周りで疲労困憊といった風情の女中達。
皿や椀などが割れ、野菜の切れ端などが散乱している。
政宗はその惨状を見るにつけ頭が痛くなった。
そして、掲げられた膳を指差し、溜息と供に告げた。
「丸焦げの炭をわしに食べさせる気か?」
「いえ…そのような!」
「火の通っておらぬ芋を、膳に載せるのか?」
「違います、そんな心算は…」
「芯の残った米である事など、見れば分かるじゃろう。」
「…………・・・」
もはや愚の音も出ない幸村は、すっかりしょげ返ってしまう。
幸村なりに一生懸命頑張った結果なのだろうが、
政宗から見れば、食材を無駄にしただけ。大層もったいないことだ。
「幸村、気持ちは嬉しく思う。
じゃが、民が収めた米や税を無駄にしては駄目じゃ。」
幸村から膳を受け取り、政宗は自分よりも上背のある男の頭を、
精一杯背を伸ばして撫でた。
がっくりと肩を落とす姿があまりにも哀れに思え、絆されてしまったようだ。
「見ておれ。わしが手本を見せてやる。
お前は客じゃしな…わしが料理を振舞ってやる。」
そういうと、政宗は自ら包丁を握り、調理を開始するのだった。
「美味しいですっ!!感激です!
政宗殿の手料理が食べられるとは…わたしは三国一の幸せ者ですねっ!」
嫁に来て良かった、と続ける幸村に、政宗が啜っていた茶を噴き出すまで、あと数秒―――。
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