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以心伝心
歩いていると、ふと抵抗感を感じ、幸村は背後を振り返った。
片肩を抜いた着物の袖を、きゅっと握る政宗が居た。
「………」
「……何とか言わぬか。」
「……はぁ…そう言われましても…。」
無言で政宗を見つめていた幸村に、政宗からの一言。
幸村はどうして良いか分からずに、ただその場に立ち尽くす。
白と緋と紫の着物。
戦で随分と汚れ、擦り切れてしまっている。
政宗の、篭手に包まれた手が掴む袖も例外ではない。
「お手が、汚れますよ、政宗殿。」
ようやく発した幸村の言葉に、政宗がはぁ、と溜息をつく。
「最初に出る言葉が、それか。」
この朴念仁めが、と呟かれ、幸村は申し訳なさそうに頭をかいた。
「すみませぬ…。」
「良い。お前が鈍感なのは知っておる。」
「政宗殿こそ、ちっとも分かっていらっしゃらない。鈍くていらっしゃる。」
「わしが、何を分かっておらぬと言うのじゃ。
おぬしより、良く心得ておるわ。馬鹿め。」
幸村をにらみつけたまま、それでも、袖を離すことをしない。
微笑ましそうにその姿を見下ろし、幸村はふっと息を零した。
政宗は分かっていない。
幸村が、政宗に対してどれほど貪欲に欲しているか。
どれほど大切に想っているか。
こうして、政宗から寄せられる好意に、どれだけ心躍らせているか。
幸村の袖を掴んだ、政宗の手を取り、その篭手に口付けを落とす。
「いいえ、分かっていらっしゃらない。
こうして人気の無い場所で、わたしの袖を掴んで、
この後、どうなるかお分かりですか?」
「…っ………」
頬を染めて俯く政宗が可愛くて仕方ない。
幸村は身を掲げて、そっとその耳元に囁いた。
「それとも、そうなることを分かった上での行動ですか?」
「……幸村……」
むぅっと不機嫌を露わに、政宗は幸村を睨みつける。
もうその表情自体が誘っていること、気づいているのだろうか。
「すみません。戦続きで、寂しい想いをさせてしまいましたね。」
「なっ……ちが…」
「一人寝は、寂しかったでしょう?」
一人で眠れないように仕向けたのは、幸村。
それに身を任せたのは、政宗。
あまりの言葉に、二の句が告げられない政宗を見つめ、
ふっと笑み、幸村は政宗の体を抱きしめた。
「それでは、ご期待にお応えしましょうか。」
「…馬鹿め…」
抱きしめてくる幸村の腕の下から、政宗も幸村の体に腕を回す。
伝わる温もりが、離れていた時の寂しさを埋める。
唇に触れた温かさと、吐息に安堵する。
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