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愛するが故の衝動
長時間の拘束からくる疲労により、瞼を落とし眠りに身を預ける、
目の前の小さな死神を、ノアは普段無いほどの慈愛に満ちた瞳で見つめた。
初めて見たのは何時だったろうか。
魔道具の回収のため、本来であればまだ近寄りたくはなかった、
デス・シティーの近くを通りがかった。
鬼神復活のシナリオは、まだ整っていなかったし、
何よりも己の存在と、魔道具の収集の事実を、まだ死神に知られるわけにはいかない。
一見殺伐とした風情が見受けられる、けれど平和なデス・シティーに一瞥をくれ、
その場を後にしようとしたときだった。
ふいに、小さな存在が視界を過ぎった。
乾いた空気に髪をなびかせ、スケートボードで飛ぶ、少年。
漆黒の髪には天使の輪のような白いラインが入り、
瞳は蜂蜜のように透明で、甘そうだ。
死神モチーフのカフスやボタンを多用している衣服を見ると、
死神に通じる子だという事が分かった。
その子の後を、爆音を轟かせながら着いて行く白い神父。
モノクロの世界に、一点だけ色を添えたような少年に、
ノアの視線は釘付けとなった。
砂漠の中を、土煙を上げて立ち去る少年と神父。
その光景はノアの脳裏に深く焼きついた。
まだ小さな根城に帰還し、せっかく収集した魔道具の確認や整理もせずに、
頭の中は先ほど見た少年で一杯になる。
退屈そうな半眼、その黄金。
何故だか酷く気にかかる。
そして、手に入れて傍に置きたいと、強く願うようになった。
気づけば、名も知らぬ死神の少年に似せた"道具"を創っていた。
名を与え暫く傍に置いてみたが、やはり違う。
本物と作り物の魂の違いは明らかで、創った分だけノアは失望した。
もう一度会いたい。せめて見かけるだけでも良い。
何故かそんな気分になり、危険を冒してデス・シティーへ赴いた。
偶然にも再度出会うことが出来た死神の子は、
かなり神経質な性格で、態度も言葉も尊大であった。
が、それが逆にノアの興味を引いた。
さらに手に入れたい衝動が強くなり、
まずは、付き人として少年の傍に居た神父を取り込んだ。
これはこれで収穫ではあったが、まだ、足りない。
少年を手に入れるまで、神父から少年の様子を伺うことで、
ノアは満足していた。
そして時は満ちる。
アラクネの配下でひっそりと行動し、手に入れる機会を待った。
今はまだ幼い、未開発の死神の子。
今ならばまだ手に入れられる。
そして今、目の前には求めて止まなかった、死神の子がいる。
どれだけ殴られようと、決して屈しない、真っ直ぐで純粋な、ノアが焦がれて焦がれて、
焼けつくされるような感情を持った、相手が居る。
ノアはキッドに近づき、腕の拘束を解いた。
キッドが眠っている間だけ、少年特有の、
華奢で未発達な体の拘束を解き、ベッドに横たえる。
「やはり、ゴフェルのような代替物とは違いますね…。
キッド、あなたは眠っていても美しい。」
眠るキッドの頬に触れ、額に唇を落とし、ノアは部屋を後にした。
キッドが目を覚ます前には、先ほどと同じ状態に吊るす予定なのだが。
流石に一日中あの姿で拘束するのは忍びなかった。
口にするかどうかは分からないが、キッドの眼が覚めたとき、
温かい食事を与えてやろう、とノアはその場を後にした。
ずっとキッドの傍らに居たいが、そうもいかない。
真にキッドを手に入れるためには、しなければならないことが山積みだ。
「おやすみなさい、キッド。わたしの、麗しの死神。
今しばらくは、良い夢を。」
小さく呟き、後ろ髪引かれる思いでノアは部屋を後にした。
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