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成長期の終わり
「…う…うそじゃ…」
ぽつりと呟かれた言葉に、幸村は振り返った。
上田城の、幸村の居室。
その部屋の柱に勝手に己の身長を刻んでいるのは、
幸村が愛してやまない奥州の王、伊達政宗だ。
「いかがされました、政宗殿？」
「…ゆ…幸村…これ、ちゃんと測り直せ！」
「え？」
政宗から差し出された小刀を受け取り、幸村は柱と政宗を見比べれる。
「いいから！もう一度測らぬか！」
「はぁ…それは、構いませんが。」
足を踏み鳴らし催促する様は、まるで子供だ、と思うが、
幸村にはそんな態度も可愛らしく映る。
「では、失礼して」と幸村は政宗の頭上に軽く小刀を当てて、柱に傷をつける。
結構良い木を使っているのだが、と思いはしたが、
こうして政宗の成長の記録を残す柱を、幸村は誇らしく思っていた。
「どうぞ。」
「…う…うむ。」
促され、政宗は今つけられた傷を見つめる。
「……やはり……」
「いかがされました、先ほどから？」
「身長が、伸びておらんのじゃ…」
「あぁ、確かに、柱の傷の位置にあまり差は見られませんね。」
政宗の頭上から、柱を覗き込む。
ちょうど、政宗の頭に幸村の吐息がかかる高さ。位置。
その身長差も恨めしいのか、政宗が頬を膨らませる。
「…わしは、負けぬぞ幸村。」
「はぁ…」
意味が分からず、幸村は曖昧に返事をした。
それが気に入らなかったのだろう。政宗は幸村に向き直る。
「わしは、もっと背も伸ばしてみせる！
お前より、もっと、ずっと、高くなってやるわ！馬鹿め！！」
「わたしより、ですか。」
「そうじゃ！限界突破した能力値も止まってしもぅた。
だからと言って、諦めはせぬぞ！」
びしり、と幸村を指差すその行動はいただけないが、
それでも政宗のそんな態度や言動が可愛くて仕方がない。
幸村はぎゅっと政宗を抱きこむと、丁度よい位置にある髪の毛に顔を埋め、唇を寄せる。
「わたしは、そのままの政宗殿も、大好きですよ。」
「…馬鹿にしておるのか？」
「まさか。そのままでいてください、政宗殿。
わたしの腕の中に、すっぽりと収まるあたなに、安心します。」
「なんじゃそれは。」
「あなたは、いつも大空を見ていて、地上のわたしなど、気にも留めてくださらない。
竜は空を恋しがるのでしょうが、地上に…わたしの腕の中に居て欲しいのです。」
少しだけ体を離し、政宗の前髪をかきあげた。
そして現れた額に軽い口付けを落とす。
「幸村…そんな事で、わしは丸めこまれぬぞ。」
「相変らず、手厳しい方だ。」
「お前とて、自らの手の内に納まる竜になど、興味はないじゃろぅ？」
「まさか！政宗殿だからこそ欲しいのですよ。」
幸村の言葉に、「馬鹿者め」と呟き、広い背中に政宗は腕を回した。
身長も、能力も、成長は止まってしまったけれど。
背が高くても低くても、能力が高くても低くても、政宗ただ一人が好きなのだ、と。
幸村も政宗の耳に呟いた。
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