はっぴーばーすでー 政宗様!!!
まずは幸政。
雲にしては珍しく、砂を吐くほどあまーぃ(?)お話。
政宗が大好きな幸村。
大丈夫な方は「つづき」よりどうぞ。
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陽のような
夏の日差しが照りつける。
じりじりと肌を焦がす盛夏の陽射しを受けながら、幸村は槍を振るっていた。
蝉の声、焼けるような陽射し、けれど時折吹く風が、流れる汗から熱を奪ってゆく。
暑い気温と体がすっと冷えるような感覚に、
幸村の槍を握る手の神経も冴えるようだった。
「幸村さまぁ~これ以上は、倒れちゃいますよー。
少し、休憩なさったほうが良いですー。」
屋敷の中から、くのいちが声を掛ける。
その手には手ぬぐいが握られていて、片肩を抜いた幸村の体に浮かぶ汗を拭う為に渡された。
「悪いな、くのいち」
「いいえ~。でも、あんまり根を詰めると、本当に倒れちゃいますよン」
縁側に腰を下ろし、幸村はふと庭を眺めた。
季節は夏、色とりどりの草花が手入れされている。
様々、綺麗な花が咲いているその中の一種類に、幸村は目を留めた。
「…くのいち。今日は何日だ…」
「はにゃ?どうしたんですか、急に?」
「いや、少し気になって。」
幸村の視線の先の花を見て、くのいちはふと気付いた。
そして、口元を意地悪く緩めた。
「幸村さま…今から発てば、間に合いますよん?
次の合戦のために、近くに陣を構えてるはずですから。」
「くのいち?」
「それに、きっと喜びますよー。」
にゃはっと笑い、くのいちは室内にひっこんだかと思うと、再びひょっこり現れる。
その手には、幸村の小袖と袴。
「急げば、間に合いますって!」
ばしん!と幸村の肩を叩いてその背を押す。
にっこりと微笑むくのいちに、幸村は苦笑すると、急いで体を拭って室内に上がった。
「すまないが、桶と水も用意してくれないか?」
「はいっ!急いで準備します」
馬で駆ければ、間に合うところに居るという。
今回は武田軍との戦ではないから、信玄は動かない。
合戦前、思いを馳せる彼人は、
もしかしたらピリピリと空気が張り詰めているかもしれないけれど。
でも今日この日は、側に居たい。
「…客…?」
「あぁ。そうらしい。」
にやにやと笑いながら、孫市が座して地図を眺めていた政宗を見下ろす。
その孫市の笑みに政宗は厭な顔をした。
「なんじゃ…その顔は。」
「いや、お前も割りとやるなぁと思ってサ。一体、いつ誑し込んだんだ?」
孫市の言葉にさらに政宗は眉を顰めた。
訳がわからないと、言外に含めるが、孫市はただ笑うだけ。
「ま、最近ずっと根を詰めてたし、少しは息抜きしろよ?
あんまハメ外すと、明日の開戦に支障が出るからほどほどに、な。」
「人聞きの悪いことを言ったかと思えば、なんじゃ次は。
もう良い。早ぅその客とやらを連れてまいれ。」
はいよ、と軽く告げて、孫市は部屋を出て行く。
訳が分からないながらも、政宗は広げていた書物を片付ける。
明日の開戦に向けての地図や軍略が散乱していた。
片付けながら、この開戦前の慌しい時に一体誰だと心がざわつく。
「……失礼します…」
「誰じゃ。」
「……幸村にございます。」
幸村、と聞いて政宗も驚きを隠せない。
そこまで交流がある訳でもないはずだ。
ではなぜ?明日の開戦について何かあったか?
それとも武田はこの戦に乱入するつもりか?
いろいろと頭の中を考えが巡り、そして消えてゆく。
「…政宗殿?」
応えのない政宗を案じてか、幸村が部屋の外から声を掛けてきた。
「…すまぬ。入ってよいぞ。」
「失礼します。」
政宗の言葉を待ってから、幸村はそっと障子戸をあけた。
開戦前、甲冑姿かと思っていたが、部屋に座す政宗は軽装だ。
部屋の中の巻物を片しながら、幸村を見上げる政宗は歳よりも若く見える。
初めて会ったころからいく年も経ち、政宗も立派な武将になったというのに。
「政宗殿…」
「なんじゃ幸村。ぼさっとしおって。座ったらどうじゃ?茶くらいは出すぞ?」
小首を傾げ見上げる政宗に、幸村は無意識に手を伸ばす。
そして、持参した手の中のそれを、そっと髪に沿わせるように挿した。
「…なんじゃ、これは?」
「あ、その…花…です。」
「花?」
不思議そうに政宗は髪に挿された花に手をやった。
己の現状を把握し、かぁっと頬に朱がさす。
「な…な…何をしておるか幸村!
勝手に花など挿しおって…馬鹿にしておるのかっ!」
突然怒り出した政宗に、幸村はハッと我に返った。
大名である政宗の髪に突然花を挿すなど、失礼極まりない。
その上矜持の塊のような彼に、花を挿すという女のような扱いは、怒りを買うのも当然だ。
「あ…すみません。つい…」
「馬鹿め!ついで済ますと思うかっ!」
挿された花を掴み握り潰そうとするが、その手は幸村の手に阻まれた。
思いのほか強い力に、政宗が怯む。
「あの!失礼はお詫びいたしますが、それはその…
瑣末ながら、贈り物でして…目の前で潰されるのは流石に悲しいので…
できれば、わたしが帰った後にしていただきたい!」
「贈り物?」
この花が?と政宗は幸村を見上げる。
「今日は、政宗殿のお生まれになった日。
本来ならばそれなりのものを用意するのでしょうが…先ほど気付き、馬を飛ばしてまいりましたので。
庭に咲いていた花を…」
すみません、と言いにくそうに、政宗の腕を捕らえたまま告げる幸村に、
政宗は目を瞠った。
生まれた日。そんなもの考えたこともなかった。
幼少の頃も今も、祝ってくれる人など少なく、自身でさえ忘れていたのだ。
「鍛錬中に庭でその花を見つけまして。
政宗殿を思い出し…。急に会いたくなりました。」
にっこりと陽射しのように微笑まれ、政宗は言葉に詰まる。
そこまで直球に告げられると、どのように切り返してよいか分からない。
何か言おうとして、止めて、けれどやはり何か言ってやろうと口を開いてまたやめた。
なんだか妙に気恥ずかしい。
幸村にじっと見つめられ、不意に政宗は視線を逸らした。
「…そのような目で見るな…」
「似合っております。」
「花を挿した姿が似合うと言われ、喜ぶと思うのか馬鹿め…」
「政宗殿、生まれてきてくださり、ありがとうございます。」
「…………ふん…一応、この花は貰っておいてやる…」
陽射しを受けて、黄色く咲く花。
まるでキラキラと輝く小さな太陽がそこにあるようだ。
鳶色の瞳に、鳶色の髪を飾る黄色の花は、政宗に本当によく似合った。
幸村から贈られたその花は、幸村が帰った後も、一輪挿しに飾られ、
最終的に押し花にされ、ずっと大切にされた。
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