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戦国とはいいつつも、
政宗絡みの兼続のお話。
猫と幸村の続きのようで、続きでないようで。
史実も織り交ぜつつ捏造捏造。

政宗は誰からも愛されているんです!
という主張。

三代×政宗もご好評頂いているようなので、
こちらもそのうち続きを書きたいと思っています。

「大丈夫」という方は、「つづき」よりお進み下さい。
(8/1 修正)


*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

義と兼続


この日、直江兼続は、主である上杉景勝の書状を持って、
奥州・米沢城に来ていた。
長くいがみ合っている上杉と伊達ではあるものの、
ここ最近は大きな戦もなく、お互い攻め入ることもない。
秀吉から厳封を受け、政宗が国政に力を入れ始めたせいでもある。

「…ほぉ。誰ぞ参ったと聞き及び、やって来てみれば…山城か。」

しゅるしゅるという衣擦れの音がしたと思えば、小気味良く障子を開けられ、
艶やかな声がした。
見上げれば、妙齢の美しい女性が立っている。

「これは…義姫様…ご機嫌麗しく…」
「麗しいと思うか、山城。」

扇で口元を覆い、半眼で兼続を見つめるその様は、明らかに兼続を嫌っている。
義姫の言葉に、兼続は表情を変えず、ただ見上げるだけに留めた。
扇を閉じ、義姫は遠慮なく部屋へと入ると、兼続の前に座る。

「何用じゃ。」
「…政宗様へ、我主、上杉景勝様よりの書状を持ってまいりました。」
「それだけか?」
「はい。」

ふん、と鼻をならし、義姫は側にあった肘枕を引き寄せて体を預ける。

「わらわは、藤次郎には見えぬ愛を、小次郎には見える愛を注いできた。
じゃから、分かるのよ。お主の、見えぬ愛がのぅ。」

目を細め、兼続を見つめる義姫を、黙して見つめ返す兼続。

「山城、そなた、藤次郎を好いておろう?」
「義姫様は讒言がお好きらしい。」
「嘘を申すな。愛だ、義だと言いながら、そなたは細君よりも我が子を好いておるのよ。」

扇の先を兼続に定め、義姫は尚も続けた。

「山城、越後でそなたほどの地位の者が、わざわざ主の書状を届けに奥州まで来るはずがあろうか?
前田の放蕩息子でも使えば良かろ?」
「…前田慶治殿は、客分ですので。」
「そう思うてもおらぬ癖に。嘘は義に反せぬのか?」

くつくつと笑む義姫は、さすが政宗の母。
兼続の核心をずばずばと言いのける。

「我が子は、初心じゃ。言わねば伝わらぬぞ?
もっとも、わらわは、そなたのような食えぬ男よりも、
真田の次男坊が分かり易くて好ましゅう思うておるがのぅ。」

兼続は座した膝の上で拳を握り締めた。
腹が立つ訳ではない。ただ、見透かされている己の気持ちを、改めて突きつけられると
どうにも居心地が悪いのだ。

「あれは、押しにも弱いでのぅ。
三成あたりに強引に押されるのも弱いやも知れぬ。現に、愛殿を京へ追いやってしまった。」
「…義姫様は、千里眼でもお持ちでいらっしゃるようだ。そら怖ろしい方ですね。」
「ふふ。そなたらが鈍いのよ。おなごの勘を侮るでない。」
「侮ってなど、おりませぬ。」
「そうかの?そなたの細君は薄々気付いておろうて。
そなたの心が、細君にもましてや越後にもなく。ただひたすらに、奥州・伊達政宗に向いておることを。」

気付いておらぬは、そなただけじゃと続け、
妖艶な笑みと供に義姫は立ち上がった。
ごくり、と息を呑み、兼続は義姫に問う。

「義姫様は、何故こちらにいらっしゃったのですか。」
「なに、暇つぶしよ。そなたも愛おしい藤次郎が来るまでの間、ただ待つのは退屈じゃろう?」

何事も無かったかのように、義姫は入ってきたときと同じように、
障子戸へ向かう。

「あぁそうじゃ。そなたが藤次郎へ懸想することは構わぬが、
害を加えようものならば、わらわが赦さぬと心得よ。
わらわは、犬よ犬よと煽って気を引こうとする、餓鬼のような真似は好かぬ。
三成のように押すか、真田が次男坊のように素直になることじゃ。」

少しだけ振り返り、障子戸に手を掛けると、時機を見計らったように、
義姫が開ける前に障子戸が開く。
廊下に立っていた政宗は驚いたように目を見開いた。

「…は…母上……このような場所に……何故…」
「なに、お前があまりにも客人を待たせるのでな。伊達の名に傷がついてはいかぬ。
わらわがお相手して差し上げていたまでじゃ。のぅ、山城の?」

無言の圧力で、兼続は頷いてしまう。
それを見た政宗が、面目なさそうに母に謝罪をしていた。

政宗は、母が己を嫌っていると思い込んでいるが、それは断じて違う。
義姫が言っていたように、政宗には目に見えぬ愛を惜しみなく注いでいる。
こうして、わざわざ兼続をけん制する程に。
ただ、伊達家当主として、奥州の覇者として伊達の家を守らせるために、
表面上政宗に厳しく接しているだけに過ぎない。

満開上人の生まれ変わり、と言われ名高く、人気の高い政宗を、陰で支えているのは義姫だ。
この女傑なくして、政宗は存在しない。

兼続は二人に知られぬように、息を飲んだ。
ひとまず、政宗を煽って彼の気を引くことは、早急にやめねば何をされるか分かったものではない。
そっと息を吐き、兼続は義姫と入れ替わりで入ってきた政宗に向き直った。

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