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太陽が地平に沈むその間際、
一条の光が差し込むようなその光に、影が大きく伸びた。
光が消えるその間際、
ぼんやりと死武専のシルエットが映る大地に、キッドはそっと降り立った。
夕焼け
いつも一緒に居る、本来であれば一緒に居た方が良い武器姉妹は連れずに、
キッドはベルゼブブで散歩に出かけた。
はたしてこれが、『散歩』と言うに値するかは分からないが。
とにかく、だんだんと日が傾き、夜の気温の訪れと供に、キッドは外に出たくなったのだ。
起用にバランスを取りながら、ベルゼブブで飛ぶ。
普段であれば、スケートボードであるベルゼブブは、地を進むものなのだが、
飛行もできるから、今日は空中を飛ぶことにした。
道であれば誰か、人に出会ってしまうかも知れないが、空中であれば、その確率は低くなる。
今は人に会いたくない気分だった。
赤い夕日を見ながら進む。
同時に、自らの内に眠る死神としての力か、破壊や殺戮といった、
良くない衝動が込み上げてくるのだ。
人に出会ってしまったら、些細な切欠で自分は人を切り裂いてしまうかも知れない。
そういった、どこか漠然とした不安を抱えていた。
赤く染まる空。
人も切り裂けば、赤い血潮で手が染まる。
「…美しい…」
夕日を見ながら、キッドはうっとりと呟いた。
夕日の赤は、脳内で銀髪をもつ人物の血に変わっていた。
「切り裂けば…お前は特に綺麗な血を流しそうだ。」
黒血が混じったソウルの血。
それは、戦闘時、職人であるマカや、ソウル自身に恩恵をもたらしたが、
キッドにとっては少々の付加価値が付いたに過ぎなかった。
メデューサがしきりに実験していた、黒血との融合。
死神にとっては歯牙にかけるほども無い。
鬼神、黒血、魔女、職人、武器…。
死神の、本来の力が解放されれば、そういったものなど取るに足りない存在になる。
キッドにとって特別足りうる存在は、
父・死神と、ソウルの魂だけだ。
キッドにとって特別な魂を持つソウルの容器<イレモノ>は、
剣を思い出させる銀色、血を思わせる紅。
夕日に向かってベルゼブブを進ませながら、キッドは自身の身を強く抱いた。
「…ソウル、もし死ぬのなら、俺がこの手で死へ誘ってやる。
綺麗な赤い血に横たわる銀は、さぞ美しいだろう。」
腹の奥から、どす黒いモヤのような、霞掛かった意識が這い上がってくる。
喉を通って、口から這い出そうになる殺戮衝動を、キッドは必死に抱きとめた。
夕日の赤に照らされながら、その赤色に向かって進む。
赤が近くなるに連れて、殺戮衝動は濃くなっていくが、同時に背後から押し寄せる、
闇色の夜に、衝動が鎮められていった。
そして、キッドの中の衝動がおさまる頃、キッドは死武専前に降り立った。
補習を受けていたマカ、ソウル、ブラック☆スター、椿がそろそろ出てくる頃だ。
衝動を抑えたあと、キッドは何食わぬ顔で彼等に会う。
心の内では、彼等を手にかけているのに、こうして笑顔で迎えることができる。
何よりそれが、小気味良かった。
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