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質問
こんなくだらない質問を、まさかする事になるだなんて、と
ソウルは自身の状況を思い返す。
よくテレビの恋愛ドラマや、どろどろの昼ドラで見る、
『私のどこが好き?』という質問。…や、そういった類の言葉。
おそらく己の人生の中で、一番無縁だと思っていた言葉を、
まさか自分から発するなんて、とソウルは深い溜息を吐く。
「…問われている意味が、分からない。」
目の前の死神様の息子は、ことりと小首をかしげて、真面目そうに読んでいた、
何十年だか何百年だか前の古書を広げて読んでいる。
「いや、だから、俺の、どこが好きなのかと。」
若干声が荒くなってしまうのは、仕方ない。
かれこれもう三度も、この問答を繰り返しているのだから。
一度目は幾分、ソウルの声が小さくてキッドには聞き取り辛かったらしく、
二度目は声を張ったのだが、キッドが己の中で解析するためだけに使われたようだ。
そして、三度目――。
問われている意味が、分からない、ときたものだ。
ソウルとキッドは、いわゆる特別な仲になって暫く経つ。
普通の思春期真っ盛りの男女であれば、どこかに一緒に出かけたり、
買い物に行ったりするものじゃないだろうか。
それを、キッドは、書庫の整理だのなんだのと、なかなか二人で居る時間を作ってくれない。
そんな状況が暫く続けば、キッドの愛情に謎が出てくるのも確かで。
それで、ソウルは人生で一番自分らしくない言葉を、キッドに投げ掛けていた。
そして、その言葉は本日四度目。
これできちんと伝わらなかったらどうしてくれようか、とソウルは深い溜息を吐きながら、
古書をキッドから取り上げて、同じ視線に座る。
「いいか、キッド。俺達の共通点は少ない。
でも俺はキッドが好きだと思ってる。でも、お前は?俺のどこが好きで、付き合ってるんだ?」
「…ソウル、それを聞いてどうなる?俺がお前を好きな事に変わりはない。
お前が俺を好いてくれていることに、変わりはないだろう?」
想定内の範囲に、ソウルもふっと方の力が抜けた。
「分かってるよ、分かってんだけど…悪ぃ…付き合ってるのに、友達と同じ感覚だったから、
お前が本当に俺の事が好きかどうか、信じられなくて。」
なにやら訳が分からなくなり、混乱した頭を冷静に落ち着けようとするのだが、
一体どれほど効果があったのか。
ソウルは針金の用にも見える髪を乱暴に書くと、キッドの側から少し離れた。
「つまり、友達といたときと同じせいで、付き合っているのかどうか、
そもそも俺がお前を好きでいるのかどうか、わからず自身がないというのだな?」
「うっ…まぁ……」
そのものズバリな物言いに、ソウルは言葉に詰まる。
「ソウル、お前のどこが好きか、というのは置いておこう。
好きなのだから、どこがどのように、どれくらいという事を話すのはあまり意味がない。
だから…」
キッドはいいながら、ソウルの襟を掴んで強引に引き寄せた。
「…もっと…お前が信じられる方法をとろう。」
間近で見る蜂蜜色の瞳が、溶け出すように緩く笑み、
その光景にソウルは息を呑んだ。
引き寄せられたからだは密着とは行かないまでも触れ合って、互いの熱を感じられる距離にあった。
そのままキッドは、ソウルの襟を更に引き、ソウルの唇に自身のそれを押し当てた。
ほんの数秒、ただ重ねるだけの口づけだったが、ソウルにはそれで十分だったようだ。
顔を真っ赤に、キッドから解放されたあとも同様しまくっている。
そんなソウルの様子を眺めながら、キッドは自身の唇をぺろり、と舐めた。
「好きか嫌いか聞くよりも、行動で示してもらったほうが、俺は楽だがな。」
意地悪そうな笑みを浮かべた後、キッドはソウルから古書を取り返し、
目的のページから読み進める。
そんなキッドの行動に、固まっていたソウルがようやく動いた。
キッドを抱きしめ、その耳元に言葉を流す。
「やっぱり、お前最高。
読めない行動や、読みやす過ぎる行動もあるし、何より、俺の扱いが上手い。」
ソウルに抱きつかれながら、キッドもどこか満足気な笑顔で読書の続きを始めた。
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