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焦燥
悔しい。
こんなに強く悔しさを感じた事は、ない。
クロナに負けた時だってこんなに悔しくは無かった。
ソウルは、目の前の光景を見て、ただ奥歯を噛み締めた。
エイボンの写本から強制排出されて、一番に見たものは、
キッドの無事な姿。
そして、そのキッドをさり気なく労わるように、隣に立つブラック☆スター。
ブラック☆スターは、キッドの戦いを邪魔するな、と教師達に告げた。
そして、キッドの作る世界を見たいとも。
その力になりたい、とも。
それは、ソウルも思っていた。
何より、その言葉を口にするのは、自分だと思っていた。
だが現実はそうじゃない。
ソウルはギリコとの戦いで負傷して、ほとんど使い物にならなったし、
実際キッドが呼んだのも、リズとパティだった。
デスサイズになったソウルではなく、リズとパティだったのだ。
確かにキッドは、ソウルがデスサイズになった事を知らない。
リズとパティを愛用しているし、
ずっと彼女等を使い続けるつもりだという事も感じ取っていた。
けれど、キッドの戦いに、自身は直接的に関われなかった。
負傷のマカとともに、サポートという形でしか参加できていない。
一体何のためにデスサイズになったのか。
死神の…キッドのために、デスサイズになったのに―――。
キッドはソウルを必要としていない。
キッドが選んだのは、リズとパティなのだ。
ブラック☆スターとキッドの見事な連携を、一歩下がったとこから
見ているしか出来ない自分。
そして、二人のコンビネーションと息を合わせるのに、
自身が奏でるピアノが使われているという事実。
血の涙が出そうなほどに、悔しい現実。
武器と職人。二人で一体だ。
職人同士よりも、分かり合えると、勝手に思い込んでいたのは己自身だが、
目の前の光景は、それを否定して見せていた。
キッドは、デスサイズでなくても姉妹を選ぶ。
ブラック☆スターは職人だからこそなのか、『神を越える』と
キッドと同じ場所に立とうとするからなのか。
職人と武器が息を合わせながら、職人同士もまた、息を合わせていく。
これこそが究極の形なのかも知れない。
自らの想いが打ち砕かれた瞬間、ソウルは涙を零しながら、
それでも鍵盤を叩き続けた。
キッドと…そしてキッドを救い出した、ブラック☆スターの連携のために。
―――一体、なんのために、俺はデスサイズになったんだよ。
今まで勝手に優越を味わっていたソウルは、
この時始めて、キッドと肩を並べて戦うブラック☆スターを羨ましいと思った。
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