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覚醒
お前だけが、笑わずにいてくれた。
お前が、俺を闇から救い出した。
―――だったら。
俺が、お前を助け出すっきゃねーよな。
「っつー訳だから、大人しく目を醒まして一緒に帰るぞ。」
水中のような感覚を受けながら、ブラック☆スターはキッドを見据えた。
シンメトリーに拘った服装は、若干変わっていた。
シンメトリーと呼んでも良いのだろうが、彼が拘る"シンメトリー"とは異質な印象を与えるそれ。
見てすぐに、いつものキッドではない、とブラック☆スターは思った。
なんだかんだと付き合いが長いのだ。
どこか悟ったような、でも諦めたような。そんな言いがたい表情。
キッドからは殺意が伝わってくるが、以前のような魂の篭ったものではなく、
至って事務的なもの。
「…お前は大きすぎる。」
「今更気付いたのかよ?俺様の存在はこの世で一番ビックだ。」
ブラック☆スターはキッドを指差して続けた。
「神<お前>よりも、だ。」
そうして、不敵に笑むブラック☆スターを嘲笑するゆうに、キッドは攻撃を繰り出した。
「全てを無に帰す俺よりも、お前の存在が大きいはずはない。
が、目的のためにまずは厄介なお前から、消す。」
独特の体術で、キッドは次々とブラック☆スターに攻撃を繰り出す。
ガードをしてもそのガードすら上手く利用されてしまう有様。
―正直、キツイ。
そう思った刹那、水中にどす黒い、大きな物体が現れた。
煙のような波のような、どこか不思議はそれは、キッドに近い存在のようだ。
『力が欲しいか』
と問われ、ブラック☆スターは力を望んだ。
それは、何よりもキッドを助けられる力を。
キッドの力になるための力を。
「俺は、キッドがつくり上げる世界が見たい。
キッドを助けて、その世界を一緒に創りあげたい。」
ただの人間が望みすぎなのかもしれない。
けれど、ブラック☆スターは只管にそれを望んだ。
「なぁ、キッド、俺はお前の世界で、
お前の横に立っていられるだけの力も、信頼も、欲しい。」
戻って来た現実の世界で、ブラック☆スターはキッドを真っ直ぐに見つめた。
本の中でどんな目に遭ったのか解からないが、
ボロボロになった服を見てげんなりしているキッドに告げると、
一瞬だけ、キッドは虚を突かれたような顔をして、
次いで花が綻ぶように笑った。
「もう、持っているではないか。
俺を間違った闇から救い出してくれて、ありがとう。ブラック☆スター。」
眠りについてもいつか必ず目覚める。
そして目覚めた先に、何を見るのか。
ブラック☆スターはキッドと並び立つことを望み、キッドもそれを望んだ。
エイボンの書からの帰還と、キッドが闇から覚醒する時に見たものは、
大きな大きな、大きすぎるほどの、強く発光する、星。
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