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かわいいひと
いつもより、若干低い位置に頭がある。
抱きかかえた体も軽い。
刀の本数が足りない。青くない。
違う点は沢山ある。
けれど、一番違うのは…
「はっ…放せ…!放さぬかこの無礼者めっ!!」
頬に朱を上らせて、必死に手足をばたつかせる、"政宗"
その反応が新鮮で、とても愛らしい。
自分の知る"政宗"は、少なくとも滅多な事では抱き上げさせてくれない。
常に自分を警戒しているからだ。
だが、この腕の中に居る政宗はどうだろうか。
幸村が抱き上げても、一瞬きょとんとこちらを見つめ返し、
現状を把握するのにゆうに三秒ほど要し、顔を赤らめた。
「…か…可愛いでござる。」
その一連の政宗の反応に、幸村はつい本音が出てしまった。
もし政宗が聞いていたら、軽く3回は殺されそうな独り言。
いまだ「放せ」と暴れる政宗をいなして、幸村は姫抱きに変えてみる。
華奢な体はどちらの政宗も同じ気がするが、
体躯が一回り、二回り、こちらの政宗の方が小さいだろうか。
「放せと言うておる!言葉が分からぬのか貴様はっ!」
「嫌だと言っているでござる。某、もう暫しの間、こちらの政宗殿を堪能したいでござる。」
「馬鹿めっ!」
暴れる代わりに、政宗はふと視界に入った、尻尾のように長く結わえられた
幸村の髪の毛を引っ張った。
「痛いでござるぅ…」
政宗が知る幸村とは異なり、目の前の幸村はなんと子供っぽいのか。
呆れて言葉が出ないが、眦に涙を溜めてこちらを見る姿は、
なんだか子犬のようで政宗の抵抗も弱まる。
「なんじゃ…泣き虫か?」
「政宗殿が、優しくしてくれないから、某は悲しい。」
すん、と鼻をすすれば、抱きかかえられたままの政宗の片眉が僅かに上がる。
「なんじゃと?」
「某の知る政宗殿は、某を撫でてくれるでござる。きす、もしてくれるでござる。」
拗ねたように呟いてみれば、案の上、政宗は食いついて来た。
「"きす"とはなんじゃ?魚なら知っておるが…」
「口吸いの事でござる。某、政宗殿から手ほどきを受けたでござるよ。」
にっこり笑って告げれば、ふたたび、政宗の眉が上がる。
どうやらこちらの政宗も、大層な負けず嫌いであるらしい。
それが知れれば、幸村も扱い易い。
「…分かった。とにかく、まずはわしを降ろせ。」
「何故でござるか?」
「馬鹿め!こんな体勢で口吸いなどできるかっ!馬鹿めっ!!」
二度も馬鹿、馬鹿と言われ、流石の幸村も凹んでくるが、
どうやらこれはこちらの政宗の口癖であり、照れ隠しでもあるらしい。
耳まで朱に染めるその顔は、反則だ。
「うーん…あなたを降ろせば、某を見上げる姿勢になる故、
恥ずかしさは増すような気がしますが…それでもよろしいので?」
問えば、政宗は更に頬を染め、「くどい」と告げてそっぽを向いてしまった。
「……わしの知っておる幸村は、そのように肌を露出してはおらぬ。
素肌に触れておると…その……」
小さな声でもごもごと言葉にする政宗を降ろし、幸村は純粋な疑問から問いかけた。
「もしや、閨事の事を思い出されて恥ずかしいのでござるか?」
「…っ?!………っ……口を慎めっ!馬鹿めっ!!」
真っ赤になって、軽く混乱している政宗を見つめ、そんな新鮮な反応に愛しさが募る。
幸村の知る政宗は、非の打ち所がない程に美しく、強く、賢い人なのだ。
いつも幸村が手の内で転がされる。
ただ、褥で暗がりの中、切なげに名を呼ばれ、かみ殺したように甘い吐息を漏らす政宗は、
何よりも幸村を焦がす人物なのだけれども。
ふと意識をやっていると、チャリっと金属音が響いて、首が下に引かれた。
首にさげている六門銭を引っ張られたらしい。
くっと引かれた先には、政宗が居た。
頬に朱を引いた、どこか眼差しに怒りがこめられた、政宗が。
政宗に引かれるまま、抵抗もせず力に従うと、程なく唇が政宗のものにぶつかる。
噛み付くように口付けられ、何度も何度も唇を食まれた。
思わず、幸村も政宗の背後に手を回す。
少し離れた唇を追って、更に舌を伸ばして、政宗の咥内を味わう。
この行動は、流石の政宗にも不意打ちだったらしく、体を後方へずらして逃げを打つが、
幸村が逃すはずは無かった。
「…っ…ふ……」
ようやく解放されて、息を吐く政宗が酷く愛おしい。
「…これ以上あなたと居ると、離れがたくなってしまう。」
「死に場所を求めて戦う幸村よりも、お前の方が気概はありそうじゃ。」
某、あとで政宗殿に殺されるでござる。
そう呟きながら、幸村は再び、政宗の唇を塞いだ。
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