*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*
猛暑お見舞い申し上げます
特殊階級エリア。
今日も部下をまいてサボりに来たわけだが。
先客が…もとい、ここの主である小さな暴君が木の根元で眠っていた。
「…いくらここが結界で守られてるからって、
ちょっと無防備過ぎなんじゃねぇの?ノラ様。」
口に出してはみるものの、この小さな悪魔が目を覚ますことなどない。
つついても、髪の毛を引っ張っても、意識のないこの時ばかりは赦される。
普段ならば『不敬罪』に当たるだろう越権行為も。
無駄な階級付け。小さな体で魔王に次ぐ地位。
階級だけ与えたって、世界の鍵を握るケルベロスを狙う輩は沢山居る。
ただ少なくとも、ここにいる間は。
その階級によって守られていることを、この小さな悪魔は知っているのだろうか。
涼を求めて木の木陰で午睡を貪っていたのだろうが、
太陽の代わりである人工光が傾いで日陰が移動して、熱いのだろう。
ころころと転がって、うーうー唸っている。
確かに、今日はひどく暑い。
魔王の魔力が弱っているせいか、最近異常気象が続いている。
その上、ノラはもともとがヘルバウンドという魔犬の悪魔だ。
暑さには滅法弱い。
リヴァンはバケツを足元に置いて、池には少し遠い位置に座る。
軽く竿を振って、池に針を投げ入れた。
近くにはノラが眠っている。
水属性の氷魔法を軽く身に纏えば、眠りに落ちているノラが心地良さそうに擦り寄ってきた。
「あんたはケルベロスなんだから、これっくらいの魔法は使えて当然なんすよ。
早く大人になって、魔法を覚えることです。」
あぁ、でも魔法を覚えちまったら、こんな問答無用で擦り寄ってくることもなくなるのか…
そう考えて、リヴァンは釣り糸の先から視線を背後に、ノラに向けた。
まだ大人になりきらない未成熟な体。
心地良さそうに眠るノラは、まだまだ庇護欲をそそる。
そのうち、庇護欲だけでは済まなくなることを自覚しつつあるリヴァンにとって
それは良いことなのか悪いことなのか。
無意識なのか、いつの間にか、ノラに軍服の裾を握られている。
涼しさを逃すまい、としているのか、
自分を保護してくれる人物を離すまい、とする子供の本能なのか。
リヴァンは苦笑する。
格式ばった家が嫌で飛び出した。自分を縛る全てが煩わしかったのに。
「なんでか、アンタなら縛られても嫌な気がしない。」
冷気を纏った手で銀糸のような前髪を梳く。
サラサラと手の中から滑り落ちていく髪は、まるで砂時計の砂のよう。
他者のことを気にかけるなんて、今まで無かったけれど、
今ならば思う。
「…どうか、世界がアンタにとって優しいものでありますように。」
呟いてみて、リヴァンは首を傾げた。
「面倒くせぇ。願うよりも、てめぇで作った方が早い。
アンタの世界は、俺が作ってやりますよ、ノラ様。」
大悪魔だとかなんだとか、世界の鍵を握るとか、そんなものに縛られて欲しくない。
この子供はもっと自由奔放に、好きに生きて良いのに。
魔王ですら『保護』で精一杯なのに、自分に何が出来るのか全く不明ではあるけれど。
ノラが幸せに暮らせるようになる事を切に望んだ。
PR