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First Impact
「Hey!お前が真田幸村?」
俺が知る幸村よりも随分とおとなしそうな顔。
『紅蓮の鬼』なんて呼ばれてる武田の若虎は、
"こっち"では随分と大人びていて物静かなヤローだった。
一瞬、虚を突かれたような顔をして、それから俺の頭の先からつま先まで、
ゆっくりと検分してから、真田幸村は小首を傾げて気の抜けたような返事を返してきた。
「はい。その…わたしが真田幸村ですが…あなたは…?」
不思議そうに俺を見る、幸村だが幸村ではない人物。
言葉を紡ぐペースも喋り方も、なんだかじれったい。
暑苦しいまでの性急さが失われると、こうも物足りないものか、と
俺は心の内で感心した。
「俺?俺様は、奥州筆頭・伊達政宗。知ってんだろ?」
"こっち"にも居るんだし。と続ければ、目の前の幸村は反対側に首を傾げた。
「…わたしの知る政宗殿は…もう少し小さくて、こう…愛くるしい感じの方です。」
「ぁんだとっ?!」
幸村の言葉にカチンとした。
小さい?愛くるしい?なんだそりゃ。奥州筆頭がそんな表現されて黙ってんのか、"こっち"の俺は。
つぅか、コイツは『独眼竜・伊達政宗』をなんだと思ってやがんだ。
まるでペットでも思い出すようにぽやっとした表情に、俺は苛立ちを覚えた。
「あぁ、でも無駄に意気高なところはそっくりですね。挫いてさしあげたくなる。」
「Aーhan?ンだよ、殺ろーってのか?相手になってやんぜ?」
手を六爪にかければ、目の前の幸村が不敵に笑む。
その瞬間、背にゾクリと何かが走った。
真田幸村は、笑んでいる。
気の抜けたような、ほやほやした笑顔は、"こっち"も"あっち"も変わらない。
そして、その笑顔の下の、この喩えようのない腹黒さも。
…そんな気がする。
手を出したら最後、灼熱で火傷をするのは、毎度、俺…だ。
「興味はありますが、止めておきます。
わたしの政宗殿はそれはもう愛らしくて、悋気も激しいのです。
もし、あなたと戦ったと知れれば、暫く触れられることすら出来ないでしょうし。」
「…俺の知ってる真田幸村は、そんなもん気にせず猪突猛進、構ってくるケドな…」
「?」
「I'm alright.」
粟立った肌が静まった頃、真田幸村は俺に背を向けて歩き出していた。
アイツは真田幸村だが、俺の知ってる真田幸村じゃない。
ひどく大人びていて、どこか寂しい。
全身紅に身を包んだ、真田幸村ではない。
だが。
「…朱と紫も悪くない。」
小さく呟いて、俺は去っていく幸村の背に声を掛けた。
「"こっち"の俺にもよろしく伝えといてくれよ!」
ひと時でも出会えて良かった。
成りは違えども、その内に秘める熱いものは一緒だ。
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