無双サナダテ。
自分の欲に忠実な政宗と、抑圧する幸村。
あまあま。
大丈夫な方は「つづき」よりどうぞ。
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切望
空は高く青く澄み、空気はキンと冷えている。
そんな中、幸村は肩袖を抜き槍を振るっていた。
真冬の冷たい空気の中で、ほぼ上半身半裸の状態であるが、
その引き締まった体にはうっすらと汗が滲む。
「…この寒い中、ようやるわ。」
「政宗殿!お目覚めですか?」
上田城に遊びに来ていた政宗が、廊下に現れた。
夜着の上に羽織をはおった状態で、未だ眠たそうにあくびを噛締めている。
「奥州ほどではないが、上田もそこそこに冷えるの。」
「今、温かい茶を淹れさせますので。」
「すまぬ。」
足音も立てず、政宗は廊下を歩き濡れ縁に下りた。
幸村も槍を持ち濡れ縁にやってきて、人を呼ぶ。
お茶を二つ頼むと、側に置いた手ぬぐいを取って汗を拭っていた。
「湯でもつかってきたらどうじゃ?いくら馬鹿と言えど、風邪を引くじゃろう。」
意地悪く、口角を上げる政宗に、幸村は苦笑する。
ふっと息を吐くと、空気の中に白く呼気が浮かんだ。
「どうした、お前らしくない。槍に、迷いが見えておったぞ。」
「…お気づきでしたか?」
「ふん。何度、戦で刃を交えたと思おておる。
槍の癖、迷いがある時の表情など、一目瞭然じゃ。」
得意げに答える政宗。
「…欲しいものが、あるのです。」
「欲しいもの?」
「欲しくて欲しくて、夜も眠れぬほどに、狂おしく、己の中の欲が暴れるのです。」
「珍しい。お前が何かを欲しがるなど。」
目を見開く政宗。
隻眼だけれど、何よりも雄弁に語る、綺麗な瞳。
余程驚いたのだろう、瞬きすら忘れて幸村を見つめている。
この瞳に狂わされるのだ、とこの場で告げたら政宗はどう反応するのだろうか。
幸村はそっと政宗の前髪に触れた。
「政宗殿は、欲しいものがあった時、どうされますか?」
「無論、手に入れる。」
「その身にそぐわぬものでも?」
「愚問じゃ。わしにそぐわなぬものなどない。
それが天下でも、わしは手に入れて見せるぞ。」
ぐっと右手に握りこぶしを作り、不敵に笑う、その表情も愛おしくて、
幸村の手は、知らず、政宗の髪からうなじへと移動する。
それをなんとも思わないのか、政宗は幸村の好きにさせている。
本来一国の主が、一武将にすぎない幸村と親交を深めることも珍しければ、
こうして触れさせることもない。
いつも触れがたく思っていたが、思いのほか、政宗は頓着しないらしい。
「…良いのですか?」
「何がじゃ?」
「こうして、わたしに触れさせていて。」
「意味がわからん。触りたければ触れば良い。
それが厭であれば、わしが触れさせない。」
政宗らしい言葉に、幸村は笑みを深くする。
「わたしも、望んでも良いでしょうか。この身にそぐわぬものを。」
「好きにせい。わしは止めぬし、止める理由もないわ。」
幸村の手が思いのほか気持ち良いのか、
政宗は猫のように目を細めて髪をすかれている。
「今のお言葉、後悔なさいませんか?」
「お前の話は始終分からんな。何を後悔することがある。」
濡れ縁に二人、腰掛けて真冬の空気の中に居る。
幸村の手が優しく政宗の髪を梳き続け、無言の時間が流れる。
真冬の朝という事も、幸村の体が温かいことも手伝って、
いつしか政宗は再び睡魔に襲われる。
寒さで目が覚めたはずなのに、とても心地良く、温かい。
「政宗殿…」
不意に、幸村が政宗の耳元で囁く。
「なん…」
幸村の呼びかけに答えようとして、首を強く引かれた。
そして温かい唇が触れ、言葉を奪われた。
長いような、短いような、それでも体温を分け合うような、触れるだけの口付け。
「ゆきむ…ら…?」
「手に入れて、良いのでしょう?」
呆然と見上げてくる政宗に、幸村はいたずらっぽく微笑んだ。
「この身にそぐわなくとも、手に入れて良いのでしょう?」
「な…なん……っ?」
慌てて、己の唇に触れる政宗。
幸村は尚も政宗の襟足の髪に触れながら、告げる。
「わたしは、竜が欲しいのです。
天下を虎視眈々と狙う、川底に眠る竜も、
戦場を縦横無尽にめぐる、天翔る竜も、
今こうして、わたしの隣で、心安らかにおられる竜も。」
「ゆきっ…!」
ようやく事態を把握し始めた政宗。
普段は切れるほどに切れる頭脳は、事、自分に向けられる好意については
とんと疎いらしい。
「お慕いしております。政宗殿。」
にっこりと微笑んで告げれば、目の前の小さな竜は面白い程動揺している。
「望んでも良いのでしょう?」
「…反則じゃ…」
真っ赤な顔をした竜は、そのまま幸村の胸に顔を埋めてしまった。
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