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☆とりっく おぁ とりーと☆
どこか殺伐とした雰囲気の、それでいて陽気な感も漂わせるデス・シティー。
今日はハロウィンという事もあり、街中、仮装したひと達で溢れていた。
子供だけでなく、何故か大人までもが仮装し、楽しんでいる姿は、心を和ませる。
普段見慣れた店主と客の喧嘩じみた値引き交渉も、
仮装し合っている者同士のものであれば、じゃれあいにしか見えない。
お気に入りの魔女ハットをかぶり、ブレアは猫の姿のままトコトコと街を散歩していた。
ついさっき、いつもより豪華なエサを貰って、食欲は満たされ、
腹ごなしも兼ねて歩いているが、いつも以上に賑わう街を歩くのは心地良い。
収穫祭に相応しく、良く晴れた街を散歩すると、だんだんと眠気が襲ってくる。
思いのまま、足を向けた先の公園では、丁度良い感じに日の当たるベンチがあり、
そこはブレアのお気に入りの場所でもあった。
(ん~…今日は眠たいし、公園でお昼寝してから帰ろっと♪)
どうせ、マカとソウルは友達の家でパーティーでもしてくるだろうし。
と考え、目的のベンチまでゆったり歩く。
けれど、残念なことにブレアの特等席には先客が居た。
漆黒の髪に半円を描く模様、漆黒のスーツ、シンメトリーに整えられたその容姿は、
ブレアも知っている。
「キッドくんだにゃん」
秋の柔らかな日差しを浴びて、ベンチに座るのは、デス・ザ・キッドだった。
いつも前を見つめる琥珀色の瞳は、今は閉ざされてみることが出来ない。
「…寝てる…」
ハロウィンのこの日、お祭り事大好きな死神の息子である彼が、
いつもと同じ姿でこんなところで昼寝など…と不審がってみるが、
目の前の無防備な寝顔に、ブレアの眠気も増すばかり。
先ほど豪華なエサを食べて食欲は満たされた。
取り込もうとするような睡魔は退けがたく、このまま身を任せたい。
少し考えてから、ブレアは無防備に眠るキッドの膝に飛び乗った。
ベンチよりも柔らかくて、温もりを感じるキッドの膝。
照らされる陽の光も心地よい。
キッドの膝の上、眠り易い場所を見つけて体を丸めると、すぐさま眠りの淵に落ちていった。
「………何やってんだ、おまえら……?」
ソウルは、公園のベンチで眠るキッドとブレアに声を掛けるが反応がなかった。
一、二時間前、ハロウィンパーティーの準備の最中、足りない食材やら道具やら、
結構な勢いで出てきた。
準備係のトンプソン姉妹がきっちりチェックしなかったせいなのだが、
今更文句を言っても仕方ない、という事で、キッドとソウルで買出しに出た。
食材と文具類・雑貨の買出し場所が正反対ということもあって、
公園待ち合わせで別れたのだが…。
ソウルが戻ってみれば、待ち合わせ場所のベンチで眠るキッドとブレア。
キッドが手ぶらだという事を見ると、おそらく便利な右手に格納したのだろう。
まったく、と溜息混じりに呟いて、ソウルはキッドの肩を揺する。
気持ち良さそうに眠っているから、起こすのは躊躇われるが、起こさないと準備が進まない。
その上、こんな無防備な寝顔を周囲に晒したくない。
「おい…キッド、起きろって。」
声を掛け、肩を揺すっても起きる素振りがない。
揺すられた振動に、ブレアが少し身じろぎしただけだった。
一体、どういう神経でこんな場所で寝こけているのだか、と溜息を吐いて、
ソウルはまじまじとキッドを観察した。
普段、こうして観察することなど出来ない。
顔に落書きでもしてやろうか、と思ったが、あまりにも肌が綺麗でやめた。
(…まぁ、整った顔立ちしてるよな。睫毛なげぇし。
髪もさらっさらだし…つか、この白いとこ、どうなってんだ?ずっと気になってたんだよな…)
指の間をさらさらと落ちていく髪をじっと見つめて、ソウルは屈み込んだ。
伏せられた睫毛に、筋の通った鼻、規則正しい小さな呼吸、少し開かれた唇。
(本当に、こんな無防備で良いのかね…)
ソウルはふと笑みを零しながら、キッドの唇に自身のそれを重ねた。
幸い、周囲に人は居ないし、こんなこと、本人が寝てる時にしかできない。
あの琥珀色の瞳で見つめられたら、触れることなど出来なかった。
(…何やってんだ、俺は。)
キッドから離れて、ソウルは自身の頭を叩く。
寝込みを襲うなど男らしくない。
自身を嘲るように溜息を吐いて、抱えていた荷物を持ち直す。
今度こそキッドを起こそうと手を伸ばして、驚く。
「ソウルくん…人の寝込みを襲うなんてダメじゃない?」
「ブ…ブレア…っ!!」
「そーゆぅことはぁ…ちゃんと本人が起きてる時にしなきゃ、ダ・メなんじゃないのぉ?」
ブレアはのそりと起き上がり、キッドの膝の上で伸びをしながら、ソウルに告げる。
大きなツバの魔女帽子の下から、ソウルを見据えると、面白いくらいに動揺していた。
「お前っ!何時から起きて…っ!!」
「んー?ソウルくんが来てすぐにだけどぉ…面倒臭いから寝てたの☆」
キッドの膝の上に座りなおし、ブレアは軽く毛づくろいしながら続けた。
「もぅ、おねーさんが誘惑しても落ちなかったのは、キッド君が好きだったからにゃのね
ブレア少しフ・ク・ザ・ツ~」
ぺろぺろ腕を舐め、半眼でソウルを見上げると、顔を真っ赤に慌てるソウルが面白い。
「おまっ…!言うなよ!絶対、誰にも!!」
「んー…どうしよっかにゃ~」
あまりにもソウルが慌てるので、ブレアにも悪戯心が芽生えてくる。
こんな思春期真っ只中の惚れた腫れたなんて、別に面白いことでもなんでもないが、
相手が必死なものほど揶揄い甲斐がある。
「ブレア!」
「ん~…じゃぁねぇー…パンパンプキン☆パンプキン♪」
ブレアが尻尾を振ると、ソウルを煙が包む。
「今日一日、その格好で過ごしてくれたら、黙っててア・ゲ・ルvvv」
ひょいっとキッドの膝の上から飛び降りて、ブレアは未だ煙に包まれたままの
ソウルの足元をくるりと一周する。
きっと、この姿で一日過ごすことになれば、ネタにもなるだろう。
いつもお世話になっているマカへのちょっとしたサプライズにもなる。
キッドからはお菓子ならぬ寝床を提供してもらい、ソウルには悪戯をプレゼント。
ブレアなりにハロウィンの行事も楽しめる。
ブレアは魔法で女装させたソウルを見て、満足そうに微笑んだ。
「あっ!テメ…っブレア……!いくらなんでも女装はないだろっ?!」
ヒラヒラした膝上黒のプリーツスカートにハイソックス、白いブラウスにはドレープたっぷり。
ご丁寧に、黒いリボンのカチューシャまで付けられて、がに股のソウルが喚く。
「かーわいぃ、ソウルくん☆じゃ、ブレアは行くねvvvマカによろしく~」
挨拶代わりにゆるく尻尾を振って、ブレアはトコトコと公園を出て行く。
ソウルが喚く声が聞こえてくるが、ブレアはにんまり笑うだけ。
「……ぅるさいぞ……」
「げっ!キッド……起きたのかよ…?」
「…流石に、それだけ騒がれれば、起きる。」
ソウルの声に目を覚ましたキッドは、ソウルの姿を見てぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「…お前……去年俺に、女装がどうとかハロウィンは云々と説明した割に…
自分は女装なのだな…」
「いやっこれは…事故っていうか、まぁその…悪戯って言うか!」
「なんだ、菓子でもねだられて、出し渋ったのか?」
「うー…違うんだケド…まぁ…なんとも言えねぇ…」
遠くにソウルとキッドの会話が聞こえ、ブレアはそっとほくそ笑む。
(ソウルくん☆ブレアは黙っててあげるけど、
ソウルくんが来たときから目が覚めてたキッドくんは、ぜぇんぶ、知ってるよ☆)
おおかた、ハロウィンでもあるし、ちょっとした悪戯のつもりで、寝たふりを続けたのだろう。
ソウルがやって来てたことに気付いても、キッドは寝たふりをしていた。
ソウルの独り言や、髪に触れる仕草に、キッドが頬を赤らめていたことも、
ブレアの視線からはバッチリ見えていた。
ソウルがキッドにキスした時には、あまりの驚きに一瞬、琥珀が光を見たことも。
(おこちゃまの恋愛ってほぉんと、楽しい♪人間っておもしろぉい☆)
食欲も満たされ、睡眠欲も満たされた。
その上、好奇心も満たされ娯楽も楽しんだ。
今日は何時になく良い一日だ、とブレアは鼻唄を歌いながら散歩を続けた。
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