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いえない言葉
「好き」
「嫌いだ」
「大好き」
「嫌いだと言っている。」
「るせぇ。素直になれよ。」
机を挟んで、向かいあうソウルとキッド。
臆面もなく、"好き"やら"大好き"やらと、よく言えるものだ、とキッドは思う。
ストレートに感情を表現される事は好きだ。
だが、同じようにそれを求められることに、まだ慣れない。
紅い瞳が半眼になり、口元が面白そうに歪められた。
それを見て、キッドの瞳が緩む。
たまには付き合ってやるのもいいかも知れない。
どうせ、遊びなのだから。
「…よかろう…。」
「うっそ、マジで?!」
「でたらめを言ってどうする。」
机に、肘を立ててその手の甲に顎を乗せ、やや前のめりに体を乗り出す。
ソウルも、にやりと笑ってキッドに倣う。
狭い机の上、吐息が触れるほどに、鼻先が触れ合うほどに、
二人の距離が近づいた。
「類を見ないほど、素直なんだな。」
「なんだ、不満か?」
ニヤリと笑うキッド。それに答えるソウル。
「顔、見て言えよ?」
ふっと笑み、キッドは銃器を扱うとは思えないほど、綺麗な手でソウルの顎を撫でた。
金と紅が絡み、甘い雰囲気が立ち込める。
「良く聞け。一度しか言わない。」
「一度だけ…か。」
ソウルの指先が、キッドの頬をなぞった。
猫のように目を細め、キッドはうっとりとその指に頬を摺り寄せる。
キッドの好きにさせながら、ソウルが先を促す。
「かなり、愛してる…と、思う…。」
「お前っ!!ここまでやって、断言しねーのかよ。」
「うるさい!コレは"しりとり"だろう!お遊びだ!!
それに、"う"の後、"こ"でつづいてないぞ!お前の負けだ!」
それまでの、甘やかな雰囲気を台無しにするような勢いでキッドは立ち上がり、その場を離れた。
その後ろ姿をソウルは見送った。
耳まで真っ赤になった、その背を。
「しょうがねぇ。でも、ま、めったに聞けない言葉、聞けたし。
今日はこれで満足しておくか…。」
キッドを撫でていた指先をぺろり、と舐め、ソウルは呟いた。
"しりとり"という遊びの中でしか、素直になれない。
キッドにとっては、今はまだ、言えない言葉。
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